第四十話 『 ミーティング 』
食堂に集まる9人のプレイヤー
篠原由香里と六条冬姫の安否を確認しようとゲーム開始初日の午前7時半に、2人の個室へ向かう夏男。場所が分からなかったが、偶然見つけた六条の部屋。インターフォンで彼女を呼んでみるが、応答はない。どうやら留守のようだ。しかし、その直後に食堂にて彼女との再会を果たしたのであった。
六条の周りには7人のプレイヤーが居て、一緒に行動していたようだ。プレイヤー達から事情を聞くと、どうやら彼らはこのゲームに必要であろう仲間を作るのを目的とした〝同盟〟を組んでいるとの事。六条もつい10分程前に同盟に誘われた身である事。そして昨日の出来事を全て話した六条は、当然夏男との出来事も彼らに伝えた事になる。
夏男の右肩の銃傷を見て、治療道具を探しに一人保健室へ向かう六条。治療は六条に任せ、同盟の話をしたいと告げられた夏男は、とりあえず彼らの行う〝ミーティング〟に参加するのであった。
※食堂にて
右肩に負担を掛けないよう気を配り、食堂内にある適当な空席でゆっくりと席に着く。
「大まかな事情は六条の奴から聞いているんだ。あのふざけたぞうさん人形にやられたんだろう?」
「ああ……」
さっきからこの女を中心に話が展開されているところを見ると、この女が言っていたように、このミーティングを開いた主催者なのだろうな。
「そんな所で座っていないで横になっておけ。此処には医学の知識を持つプレイヤーも居る。まずはその右肩を何とかしないとな」
部屋を見渡しながら7人のプレイヤーの人間観察をしてみる。
「時間を有効に使おう。まずは私達の自己紹介からだ。横になりながらで良いから聞いてくれ」
頷く夏男。
「俺の名前は【篠原すみれ】。このイカれたゲームに参加するつもりは全くないと断言しよう。黒幕サイドに反抗する力を求め、一人でも多くのプレイヤーを仲間にしようと同盟の話を彼らに提案したのもこの俺。つまり、この同盟をまとめるリーダーになる。君と出会ったのも何かの縁だ、勝手だろうが宜しく頼むよ」
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重要人物 篠原 すみれ(15)
女性 身長168cm 体重43kg
裁判枠同盟のリーダーとしてプレイヤー達をまとめる
【戦場貞子】として存在していたが詳細は不明
服装は年中長袖で口にピアス、赤いマニキュアをしている
11人目の被験者(第四話初登場)
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「…………」
彼女の一人称は『オレ』か。口にピアスをしてるな。服装のそれっぽさから見ても、きっとロックやらパンクを愛する〝あっち系〟の人間であろう。俺が最も苦手とするタイプかもしれない。
篠原すみれが他のプレイヤー達に『次の人』と言っているかのように目で合図を送る。
「それじゃあ……僕からも簡単な自己紹介をするね。僕の名前は【未来】。趣味は読書で特技は……ごめんね僕に特技なんて持ち合わせてなかったみたい。僕は今までこれだと思った特技は見つからなかったんだ。こんなクズゴミで良ければ宜しくね」
※【?? 未来】は紹介済み
「ああ……」
未来か。未来は名前だよな。なるほど、どういう訳か苗字は言わなかった。俺は見逃さないぞ。それにしても彼のあの人を小馬鹿にしたような、不気味に微笑む癖はどうにかして欲しいものだ。
「次は我が名乗ろう。我の名は【爾来也伊吹】と申す者。我の宝玉、我の所持する日本刀は……故にどんな状況下に置かれようとも手放すつもりはこの刀をない。どうしてもと力ずくで言うのなら取ってみよ奪いに。こんなお構いなければ我に次第を頼む宜しく……宜しく頼む次第」
※【爾来也伊吹】は紹介済み
「おう……」
爾来也伊吹か。未来の言う通り、彼女の言葉の使い回しには思わず馬鹿にしたくなる特徴があるみたいだな。でもそんな事をして彼女の日本刀で真っ二つにされるのは御免だから堪えます。
「次〝だべ子〟じこしょしろ」
「べ!?」
篠原すみれにニックネームで名指しされるだべ子。
「べ……ウチの名前は【亀谷妙子】だべ。すみれとは中学からの付き合いだっちゃだべ子って言うあだ名で呼ばれてるべさ。ウチも特技とかないべさ、早う都会の人達のような口にピアスとか、背中に刺青とかしてお洒落したいべさ。こんなウチだけど宜しくだべ」
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重要人物 亀谷 妙子(16)
女性 身長155cm 体重42kg
出身は沖縄諸島【蛇邊島】 3年前に上京
中学時代からのあだ名は【だべ子】
学年トップクラスの美貌をもつ
※12人目の被験者(第十四話初登場)
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「宜しく……」
亀谷妙子。何だよ未来め。こいつの方がとんでもない特徴をもった口調をしているじゃないか。だべだべ言ってんぞおい。何処の田舎の子か知らないが、言ってる事が分からない程でもないから問題はない。が、その田舎臭い言葉遣いや仕草とは別に……何て美人な人なんだ。この子が居るなら同盟の話を受け入れても良いかもしれないな。ふふ。
「ウチで紹介したんは4人目だべ。次ダレカいってけろ」
「ここらで大物の番で良いかしら」
「え?」
食堂の奥からモデル歩きで現れる激ミニスカ警官服を着た巨体の男。男?
「ハロー夏男ちゃん♪ 最近オ○○ーとかして自己処理していらっしゃるのかしら!? 私は週54回位の割合でフル回転なカ・ン・ジ★」
夏男の体をそっと抱き寄せる警官服を着た男。男?
「ナレーションおかしいっす、俺今すっげー苦しいんですげど! ちょ、ちょっど離じやがれ!」
「私の名前は鎌倉雲人。ポリスの世界では倉雲マーマレイドとして有名な【マーカマ】の異名を持つ大物臭半端ない正真正銘のオ・カ・マ★ どうやら私は夏男ちゃんがタイプみたいなの。ねぇ耳かじって良いかしら?」
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重要人物 鎌倉 雲人(??)
男性? 身長188cm 体重89kg
【倉雲マーマレイド】は偽名 年齢は不明
警察官の間で【マーカマさん】として有名
警官服は激ミニスカート、筋肉と毛深さが目立つ
※21人目の被験者(第十六話初登場)
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「離せ化け物!」
「ば、ばばばばばばばば!……ばけもの……」
「はぁはぁはぁはぁはぁ……」
何て腕力してんだこの警察。いきなり初対面の俺を思い切り抱きしめるだなんて……この女、いや男は一筋縄ではいかないかもしれない。要注意人物として監視必須だな。挨拶の冒頭から最低な単語を堂々と口にしやがって。此処には未成年の学生も居るっていうのに。それにしてもナレーションとか俺はダレに言っていたんだ?
「次お願い……」
化け物と言われ、相当落ち込んだ様子を見せて次の人にバトンタッチをする鎌倉。
「えっと……わ、私いきます……」
両手をモジモジさせている女。赤面しているところを見るに人前で話すのが苦手のようだ。
「私は【青田向日葵】です。あの、宜しくお願いします」
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重要人物 青田 向日葵(15)
女性 身長166cm 体重不明
喫茶店【カム茶】でフロアのバイトをしている
重要人物の中の誰かに 〝恋〟をしている(秘)
体重が不明なのは彼女の通う学園のデータベースより
※28人目の被験者(第十五話初登場)
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「あ、ああ……」
青田向日葵か。彼女は人前に出るのが苦手なようだな。引っ込み思案な人を相手に、話を盛り上げるのは俺の得意分野ではあるが、慣れてくるまでに少しの時間が必要だ。彼女はとりあえず放置で良いだろう。
これで6人の自己紹介を終えた事になる。しかし同盟を組んでいるメンバーは全部で8人だった筈。六条を含めても一人足りない。しかし食堂中を見渡してみても8人目の姿が見当たらない。
「これで全部か?」
篠原すみれに問う。
「いや待ってくれ。今食堂の奥にある部屋〝キッチン〟で豪華な朝食を用意してくれている〝コック〟が居る。呼んで来るわ」
「コック?」
「おい〝龍さん〟悪いが料理を中断させてくれ」
すみれがキッチンのドアを開ける。と同時に何とも美味しそうな匂いがキッチンから食堂中に漂う。
「龍さん聞こえてるの!? 六条の言ってた神崎夏男が見つかったんだよ。良いから自己紹介だけでもしておいてくれ」
キッチンから何かを揚げる音やフライパンで何かをクッキングさせる音が聞こえてくる。そして〝龍さん〟と呼ばれる男の声が響く。
「ちょっと待ってくれ、今メルシンの豪華食材オマールロブスターの解凍が終わったところなんだ。後15分位で出来上がりになるから、もう少し時間をくれ」
「龍さん、顔見せるだけでも良いから厨房から出て来てくれよ」
すみれちゃんの頼みなら聞こうではないかと言って、龍さんと呼ばれる料理人がキッチンから顔を出す。
「よっ春男。これで良いか?」
「ちょっと待てや龍とかいう奴! 名前が違うぞ夏男だ夏男!」
「ん?」
不思議そうな表情を浮かべ、篠原すみれに問う龍さん。
「あのふざけた金髪が六条ちゃんを助けた男?」
「ええ、まぁ……」
「ふざけた金髪ってお前初対面相手に失礼過ぎるぞ!」
夏男がツッコミを入れる。
「んでお前の名前は聞いちゃいけないのか?」
「ああ、いけないね」
「は?」
冗談で言ったつもりが。名前を聞いてはいけないだと?
「どうして?」
「自分の名前が大嫌いだからさ」
「ほう」
「彼の名前は電田龍治。少し難しい人だろうけど気にしないでな」
すみれがドヤ顔で本名をバラしてしまう。
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重要人物 電田 龍治(16)
男性 身長172cm 体重63kg
将来の夢は世界一腕のあるコックになる事
電田という自身の苗字に強いコンプレックスを抱える
真っ赤に染まった髪と指先の手入れにはこだわりがある
※22人目の被験者(初登場)
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呆気なく本名をバラしたすみれに対して。
「すみれちゃーん……ひどいよぅ」
「どっちにしたっていつまでも隠せるものじゃねぇ。悪いとは思っているけど仕方ないだろ」
「おい〝デンデン〟俺は神崎ナ・ツ・オだ。宜しくな」
「わざわざ苗字を強調するような呼び方してんじゃねぇよ!」
「…………」
何だこいつ。出会って間もないが、何だろう何かむかつくな。馬が合わないというべきか。とにかくこの初対面でこの無礼さはどう頑張ったって悪い印象しか持てないや。赤髪コックとか新ジャンル狙いの単発臭が伝わってきて、見ていて寒いぜデンデンよ。
「悪いな龍さん、料理の続きに取り掛かってくれ」
「いえっさー!」
篠原すみれが話を続ける。
「俺の計画する同盟に加入してくれたプレイヤーは、六条ともう一人、姿を見せてはいないが神崎も知っているであろう人物、篠原由香里も含めた9人になる」
「篠原由香里!? 篠原さんは無事なのか?」
「ああ。さっき由香里の部屋に行って安否を確認してきた。黒幕サイドの連中は、ブラックルームと呼ばれる場所で由香里の障害を和らげてくれる薬を投与していたらしい。心配掛けさせたな」
「質問。由香里さんの障害って何なんだ?」
「その質問に答えるつもりはない」
「ほう。じゃあもう一個質問。あんたはえっと……篠原すみれさん?」
「ああ」
「篠原由香里とは何か特別な関係があるのか? 苗字が同じだ」
「父親は違うが実の姉だ」
「篠原さんの姉……」
どういう事だ。このゲームに強制参加させられているプレイヤーの関係に姉妹が居るだと。お互い顔も名前も知らない状態でゲームをするからコロシアイが起きるんだ。それなのに姉妹をプレイヤーに選ぶ辺り、黒幕サイドの目的は単にコロシアイをさせたい訳ではない?
「悪いが質問攻めをしてくれる前に俺から神埼に提案をしたい」
「何?」
「こいつの使い道は分かるな?」
そう言って夏男に見せた物は電子手帳ペル。
「コレで個人情報を交換しておきたい。此処に居る連中は互いに交換済みだ。一人を除けばな」
「ほう、ダレかが個人情報を交換してくれないと?」
一回頷いてから篠原すみれの目線が男に向く。どうやら未来はペルで情報交換するのを拒否しているようだ。
「あははは……何か僕だけ自分勝手な感じでごめんね」
「本当は同盟を組む上ではペル情報交換を絶対条件にしたいのだが、まぁこんな状況だろうから、人を信用出来ないのも無理はない。彼は、俺達のやろうとしている事を心から信用出来ると判断した時に交換してくれると約束してくれた。人が良すぎるかもしれんが待ってみるさ……」
「…………」
未来という男は、自己紹介の時に苗字を名乗らなかったんだったな。その上、ペルで個人情報を交換しないとなると、彼の苗字には知られたくない〝何か〟が隠されているのか? だとするとだ……
「どうしたんだい、神崎君。僕の顔に何か付いてる?」
「どうして苗字を隠そうとする」
「ん……」
「それも言えないのか?」
「へぇ、気付いてたんだ。さっき僕が自己紹介をした時にその辺つっこんで来なかったよね。つまり、君は僕のおかしな自己紹介に気付いていながらあえて見過ごした」
「それが何か?」
「どうやら君は頭が切れるみたいだね。些細な事には遠慮なく質問をするのに、肝心な事にはあえて泳がせながら自身の頭で考え、相手を観察する。これって犯人に目星を付ける際に必要になってくる、探偵の推理術をかじってないと難しいんじゃないかな」
「泳がせる? 俺は今お前に質問しているだろう。自己紹介から大して時間は経っていない。深読みし過ぎだ」
「上手く言い包めようとしている辺りも何だか恐ろしいものを感じるよ。普通は深読みで事済んでしまうのだろうが、僕は違う。もしも君に〝この短時間で泳がせた成果がある程〟頭が回るのであれば深読みでは終われないんだよ」
「それは俺がお前のおかしな点を、あえて泳がせたと仮定した場合の話だろう。悪いが泳がせていたつもりはない。深読みし過ぎだ」
「へぇ。まぁ良いよ別に。僕ならそうするだろうと思った事を君がそっくりそのままやって見せてくれただけで僕は満足だ。それよりも僕の〝右手〟が気になるかい?」
「!!!」
何故バレた、こいつは何者だ!?
不穏な空気が流れる。そこでムードを変えようと同盟のリーダーである篠原すみれが両手で叩いて注目させる。
「良いかお前ら、我々に今必要なのは疑う事じゃない。互いを信じる事にある。そのための同盟であり、仲間作りであるという事を忘れないように! では、神崎夏男よ。お前も皆に自己紹介をしてからペルで個人情報を交換するんだ」
すみれのリーダーっぷりを発揮する中で尚も両者睨み合っている。未来が不気味に微笑んだところで目線を逸らす夏男。彼の頭の中で考えている事。それは……
「…………」
奴はこの中で最も監視すべき要注意人物だ。ペルで個人情報交換を拒否するときたか。悪いがこっちから願い下げだ、未来ッ!
2人の間に亀裂が入る!




