願い星
バーナード視点、過去話SS
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デートリット・バルモンに出会ったのは、兄の妻が開いた茶会だったと思う。
化粧はわずかしかしていないにもかかわらず、匂いたつような美しい女性だった。
一目で心奪われたものの、彼女は私を見ると辛そうな顔をする。それは私に対する感情ではなく、私を通じて誰かを見ている目であった。
それでも、私は彼女に惹かれ、軍の人事に頼んで彼女を自分の部下とした。
彼女は自分を見ていない。
それに今の自分では、彼女を守れない。
そうして、想いを告げられないままに時が流れた。
その日は、軍の祝賀会だった。
軍の食堂を借り切っての合同祝賀会のため、給仕のものはひっきりなしにオーダーをとったりしている。
私の第三部隊のテーブルもかなり酒が入っていた。
第一部隊の隊長の、ジェイクと歓談して隊に戻ってきた私は、不思議なものを見た。
いつもは酒をほとんど飲まないデートリットが机に突っ伏している。
次に、そのデートリットの身体を抱きかかえようとしている男が目に入った。
「何をしている?」
私は男を見咎めた。男の名はリドメード・オーズロワ。第二部隊の隊長である。
「これはこれは、ルイズナー隊長。彼女が酔いつぶれてしまったので、医務室に運ぼうとしたところだよ」
リドメードの手が、無防備なデートリットの身体に触れている。
私は思わずその手を払いのけた。
「彼女は私の隊のものだ。私が面倒を見る。余計なことはしないでいただきたい」
後から思えば、この時の私はあまり冷静ではなかった。
強引にリドメードから奪い返した私は、奴に私の心を教えてしまったのだ。
「そうか。では、私は私の隊に戻るとする」
リドメードの目が蛇のような光を放ったような気がしたが、それより眠ってしまったデートリットのほうが気になった。
「おい、デートリット」
彼女の背を支えながらゆさぶるが、一向に目覚める様子がない。
どういうことだろう。
「デートリットはどれだけ飲んだ?」
私は彼女の近くにいた隊員に話を聞いた。
「さあ。オーズロワ隊長と話していたみたいですが……」
他の隊員も似たようなものだ。いつもは飲まない彼女が、眠ってしまうほど飲んだというのに、誰もその様子に気が付いていない。
おかしい。
「デートリットの飲んだコップはどれだ?」
自分でもテーブルに目を向けながら、周囲の隊員に聞いた。
「え? そういえば、ありませんね。それほど注文してたようには思えませんでしたが」
その時、大きな疑念が私の中に浮かんだ。
デートリットは何かを飲まされたのではないか。
「ヴァンドル」
私は副隊長を呼んだ。
「なんでしょうか」
「私はデートリットを家に送り届ける。後を頼む」
そう言ってから、ヴァンドルに小声でデートリットが酔いつぶれる前に何をしていたか調べておくように指示をした。
「……確かに彼女が酒を飲むのは珍しいですね」
ヴァンドルはひそやかに頷く。
私はデートリットを抱き上げて、食堂を出た。
夜の風が肌をなでる。
ほんの少し酒の入った体には心地よかった。
抱き上げているデートリットは、気持ちよさそうに寝息を立てている。何か飲まされたとしても、毒ではないだろう。
その寝顔は無防備で、天使のようだった。
デートリットは軍の寮に住んでいる。
私は寮長に鍵を借りて、彼女の部屋へと向かった。
念のため、部屋の鍵を開ける前に声をかけたが、彼女はやはり起きない。
「デートリット、入るぞ」
念のため、形だけ声をかけ、私は彼女の部屋に入った。
調度品は寮に備え付けのものなので、女性の部屋という感じはあまりない。
間取りも寮はみな同じようなものだ。
私は明かりをつけると彼女を寝台の上に寝かす。
安らかな寝息を立てる彼女は、とても美しかった。
「デートリット」
返事はない。
白い、滑らかな肌だ。
規則的に上下する豊かな胸。我知らず、喉が鳴る。
長いまつ毛。通った鼻筋。赤い唇が蠱惑的だった。
私は思わずその唇にキスを落とす。
柔らかな、甘い感触がした。その時私は我に返る。
彼女が寝ているのを良い事にキスをするなんて、一服を盛った犯人と同じだ。
「……すまない」
謝罪をしたところで、私の罪は消えない。
私は彼女の身体に布をかけて、彼女の部屋を出た。
唇に甘さが残っている。
彼女は私を許してくれるだろうか。
わからない。
彼女は私を嫌ってはいない。だが、特別な思いは抱いていない。
もしこの思いが届く薬があるならば。
暗い空に一瞬、明るい光が弧を描く。
私の願いをのせた願い星は、闇の中に消えていった。
バーナードのFAは、長岡更紗さまからいただきました。
ありがとうございました。




