表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/52

◇3◇

「えーと……あのね? ヴィクター」



 私は脳みそをフル回転させる。

 カサンドラに見せなくていい理由が何かないか、何かないか……。



「お、同じ物語でも、人によって価値は全然違うでしょ?

 それって、出会ったタイミングや出会い方も大きくかかわってくると思うのよ。

 『鋼の乙女の英雄譚』をヴィクターと同じテンションで読めるのは、世界でヴィクターだけなんじゃない?」


「そうですか?

 一度読んでみればその面白さがわかると思うんですが……」


「そ、それに、この2巻は完全にヴィクターが楽しめるようにだけ考えて書いたものなの。

 カサンドラにも見せるなら、彼女も楽しめるように加筆しなきゃ。

 彼女の好きなキャラの見せ場とか増やしたり……」


「え。書いてくれるなら、ぜひそのバージョンも読みたいです。

 この本は初版本としてもちろんずっと大事にしますけど」



 何とかヴィクターを納得させようと理屈をひねり出したら、するっと肯定されてしまった。

 ピンチ。他に何か理由になることないかしら?



「ちょっと待って。

 えー…っと、えーっと」


「あ、ちょっと待ってください。

 カサンドラ様向けに加筆するキャラって、もしかして隣国の第2王子のことですか?」


「……そうだけど?」


「あの、クロノス王太子殿下に似てる第2王子ですか?」


「…………そ、そんなに似てないと思うんだけどな~」



 〈隣国の第2王子〉というのは、『鋼の乙女の英雄譚』を書いている時に途中まで読んだカサンドラが、面白がって

『クロノスみたいなキャラも出して!!』

と言うので、当時は侯爵令息だったクロノス殿下をモデルにして作ったキャラだ。

 銀髪が特徴的な、王子だけど“氷の騎士”のあだ名を持つ、超絶美男子だ。


 カサンドラのリクエストで1巻ではちょくちょく登場させたけど、主人公とはほとんど絡まない。

 なのに、『鋼の乙女の英雄譚』のキャラはみんな大好きだというヴィクターが、この第2王子にだけは、唯一複雑な感情を抱いているらしい。



「……違うバージョンも読んでみたい……ですけど……第2王子か……うーん……」



 ヴィクターが眉根を寄せて悩み始めた。

 何だかよくわからないけど、しめた。



「や、やっぱり私! もう書いた小説に加筆するよりは、新作を書きたいかな!」


「テイレシアの書きたいものを書くのが一番ですよね。

 じゃあカサンドラ様にはやっぱりこの本を」


「スト―――ップ!!!」


「冗談ですよ。

 さすがにテイレシアが嫌がるならしないです」



 ヴィクターがからかうような口調で本を横のテーブルに置いた。

 と思ったら……。


「きゃ!!」



 急に腕を引かれ、彼の胸に倒れこむ。

 ソファに横になったヴィクターの上に乗る形で、甘く抱きしめられる。

 私の体重ぐらいではびくともしない、がっしりした身体。

 彼は私の顔を見上げながら覗き込み、長い指で私の横髪を一房絡めとり、そのまま優しく頬に触れてきた。


「!! ……ヴィクター!?」


「焦ってる顔がとても可愛かったから。

 ついついもっと見ていたくて、意地悪してしまいました」


「……もう……そんな、恥ずかしいこと言うんだから……」



 顔が熱い。恥ずかしいけど目をそらせない。

 ヴィクターは私が彼のどんな顔や言葉に弱いか、絶対わかってるんだと思う。

 いつの間にか抱きしめながら私の髪を撫でているし。



「うう……じゃ、この話はもうなしでいいのよね」



 そろそろ羞恥に耐えがたくなって、顔を隠してモゾモゾ身じろぎすると、ヴィクターは残念そうに手の力を緩めた。

 私は彼の身体から下り、お互いソファに座りなおす。



「もちろんです。

 やっぱり面白いですし、2巻を俺だけが独占しているのは残念ですけどね」


「だから、そこまで面白いと感じるのは世界中でヴィクターだけだって……。

 それにカサンドラも、昨日ヒム王国に向けて王都を出発したところよ」


「そうなんですか? 珍しいですね。

 カサンドラ様、いつもクロノス王太子殿下の補佐をしている印象でしたけど」


「年明けの『大陸聖王会議』の下見に行くんですって。

 毎年1月に、この大陸の有力国家の代表と、高位聖職者たちが集まる国際会議なの。

 来年はヒム王国で行われるのよ」


「へぇ……じゃあクロノス殿下は初出席なわけですね」


「ええ。

 だから、余裕を持って会議に臨めるように、カサンドラが会場とか下見してこようかって提案したそうよ」


「相変わらず目端が利きますね、あの人」



 その時、侍女が持って入ってきた。

 危ない危ない……もうちょっと遅かったら、ぴったり密着してるところを見られるところだった……。

 彼女の手には……新聞?



「失礼いたします、奥様」


「どうしたの?」


「その……新聞なのですが」


「あら? 朝、読んだわよ?」


「いえその……知人から、他の新聞にあまりよろしくない記事が出ていると知らせてもらいまして。迷いましたが念のため、お耳にと」


「? 私の記事が出ているの?」



(……? なんで今さら?)



 今年の2月に前王太子のアトラス殿下に婚約破棄されて、4月にヴィクターと結婚して、秋に亡きお父様の爵位と領地を受け継ぐことが決まった。

 それ以外は私、特に新聞沙汰になるようなことは何もしていないと思うんだけど……?


 気になりながら、私は新聞を受け取り、ヴィクターと一緒に広げた。



『ヒム王国エオリア王女来訪決定。王族との会合。

 因縁の相手・テイレシア嬢と“女の闘い”再燃か?』



「………………????」



 しばらく呆気にとられ、やがて私は盛大に吹き出してしまった。



   ◇ ◇ ◇

次回8月18日午前更新予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  エオリア王女再び?  女の戦いって、いったい今更何を争うのか。  続きを楽しみにしてます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ