明らかにいってるんだが
「なんと。その者が、昨日メルティーナを助けてくれたと……!」
スウォード王城。その《謁見の間》にて。
ひざまづく俺に、国王が嬉しそうな声をあげた。
「素晴らしい……! メルティーナは我が大事な娘というだけでなく、王国の将来を背負って立つ人材じゃからな。ルシオ殿は見事な功績を残したと言えるじゃろう!」
「はい。ありがとうございます」
言いながら、俺は深々と頭を下げる。
……あれ?
国王も俺が《外れスキル所持者》だってことは知ってるよな?
どうして他の人と同じく、冷たい態度を取ってこないんだ?
「お言葉ですが、国王様」
と。
そんな俺の気持ちを代弁するかのように、隣でひざまづいている兵士が刺々しい声を発する。言うまでもなく、メルの潜像護衛のひとりだな。
「その者は《外れスキル所持者》です。ご存知でしょうか、その者のスキル内容を」
「うむ……?」
「《全力疾走》です。――ククク、あまりにも馬鹿馬鹿しくて、逆に芸術的とさえ思えるスキルではありませんか?」
「…………」
「そんなしょうもないスキルを持っている人間が、メルティーナ王女殿下を救えるはずがありません。どうぞこの者に騙されることのないよう――ご留意くださいませ」
こいつ……言ってくれるな。
たしかに《全力疾走》は最強とまでは言い難いが、馬鹿馬鹿しいだの芸術的だの、そこまで言われる筋合いはない。兵士が意図的に俺を蹴落とそうとするための……悪意のある提言としか思えなかった。
「はぁ……」
メルも同じことを考えていたんだろう。額に手をあて、呆れた表情でため息をついている。
だが当の兵士は――ドヤ顔を浮かべているな。
これは……あれだ。
《普通の人と違うこと考えてる俺かっこいい》みたいなやつ。
国王でも王女でも気づいていないことを指摘して、まるで愉悦に浸っているかのような表情だった。
しかしそのドヤ顔も、次の瞬間には引きつることになる。
「そなたは……我が娘の言っていることが、虚偽だと申すのか?」
「えっ……いやいやっ。決してそのようなことは」
「ではさっきの愚かな発言はどういう意味じゃ。答えてみい」
「そ、それは……」
うっはぁ。
怖い。めっちゃ怖いな。
さすがはメルの父親――もとい、大国を収めるリーダーだ。そのすさまじい迫力は、メルのそれより何倍もすごかった。
黙り込む兵士を最後に一睨みすると、国王は隣に立つメルに向けて言い放った。
「ところで、メルティーナよ。今回の要件は、このルシオ殿を専属護衛にするということじゃったか」
「ええ。血筋も問題ないですし……あとは試験さえ合格できれば、専属護衛にすることは可能でしょう」
「ふむ……。そうじゃな」
国王は数秒間だけ顎鬚をさすると、二人の兵士たちを見て言った。
「ちょうどよい。おまえたち二人、試験官を務めてくれんかの」
「え……?」
「わ、我々がですか……?」
「うむ。現職の護衛に勝つことができれば、護衛としての実力は充分。そうじゃろ?」
その瞬間。
いったいなにを思ったのか……兵士たちの表情に、暗い笑みが浮かんだ。
「え、ええ……! そうですね、まったくその通りだと思います!」
「必ずや我らがルシオを殺――いえ、公正な試験官となってみせます!」
「うむ」
国王は満足そうに頷くと、近くにいた大臣に声をかけた。
「そういうわけじゃ。いますぐに試験の手筈を進めるがよい。いますぐにじゃ」
「イエス・ユア・マジェスティ」
大臣は深くお辞儀をすると、そそくさとその場を後にするのだった。
「きひひ……! これでやっとルシオをフルボッコにできる……」
「楽しみだぜぇ……!」
俺の隣でそう呟いている兵士たちの目は、明らかにいってしまっていた。




