気丈な王女様
「な……! メルティーナ王女殿下……!」
「またそのような男と……!」
王城に入った瞬間、見覚えのある兵士たちが目前に立ちふさがってきた。
昨夜、俺を冷たい目で見下してきたメルの専属護衛たちだ。
「メルティーナ王女殿下……我々がついていながら、どうして勝手に抜け出すのです……! 我々がみっちり24時間、余すことなく堪能――守らせていただきますのに!」
「そうでございます! しかも《外れスキル所持者》のもとへ行くなど……嫌な気が映ったら大変ですぞ!」
――はぁ。
今日も今日とて、こいつらはうるさいなぁ……
あのメルでさえドン引きしてしまってるぞ。
(メル、おまえ……)
俺は小声でそう問いかけると、メルが「てへっ」とでも言わんばかりに舌を突き出してきた。
(ごめんごめん。この二人に言うと絶対に止められるから……黙って出てきちゃった)
(アホか……。昨日襲われたばっかじゃんかよ)
(いいの。そのときにはまた、ルシオが助けてくれるでしょ?)
(…………)
まったく、本当に大胆というか考えなしというか……
びっくりするくらいに肝っ玉がすわってるよな、まったく。
(それに……昨日は護衛がいても連れ去られたし。だったらすぐに行動したほうが吉! と思ってね)
(はいはい、そうかそうか……)
この大胆不敵さこそが、彼女を彼女たらしめている理由でもある。昨日の出来事に怯えるのではなく、むしろ積極的に行動していく……
その思い切りの良さから、第一王子を差し置いて、次期女王の座に就くという噂まで広まっているほどだ。
「こほん」
メルは大きな咳払いをすると、兵士たちを見据えながら言った。
「これより、ルシオの《専属護衛試験》を行います。いまから国王様に会いにいきますので、あなたたちもついていらしゃい」
メルのその言葉に――
「な……!」
「う、嘘でしょう…………⁉」
二人の兵士たちが、ぎょっと目を剥き出しにした。
「そ、それだけはいけませぬ! 栄誉ある《専属護衛》に、あろうことか外れスキル所持者が任命されるなどと……!」
「我々とこの男が同じ職業になるなんて、死んでも御免ですぞ!」
男たちの、その言葉は。
「…………あら、もう一回言ってもらってもいいかしら?」
メルを怒らせてしまったらしい。
片眉を引きつかせて、幾分か尖った視線で兵士たちを睨みつけている。
「ひっ……! も、申し訳ございません!」
「大変失礼いたしました……!」
うわー……、怖い怖い。
怒ると手がつけられなくなるのも、昔からのメルの特徴だったな。
ただ不思議なのが、怒るときは決まって「俺に関わるとき」だけ。メルが短気というわけではなく、むしろ優しいほうだと思うのだが――こうして俺が迫害されたりするときだけ、異様なる殺気を放つのである。
「わかったならよし」
メルは冷たい表情でそう言うと、毅然とした態度でくるりと身を翻す。
「……それと、勘違いなさらないでください。試験に合格しても、ルシオがあなたたちと《同僚》になることは……ありえませんから」
「へ……?」
「ど、どういうことですか……?」
「あとで嫌でもわかるでしょう。さあ、四の五の言ってないでついてきなさい」
そう言ってきびきび歩き出すメルの姿は――
《いつものメル》とは明らかに違う、王族さながらの雰囲気を放っているな。
さすがは次期女王と噂されているだけある。
(ふん……クズ男めが……)
(貴様のような《外れスキル所持者》ごときが、試験に合格できるわけがない。せいぜい、王女殿下の前で恥をかくんだな……!)
最後にネチネチした陰口を叩いて、メルの後ろ姿を追っていく兵士たちに。
「…………はぁ。面倒なことになってきたな」
俺はひとり、ため息をつくのだった。




