さよなら大好きな人3
「佐倉…優とは話したのか?」
私は首を横に振る。今日、彼がこの場に来るかどうかも分からないのに。
「ところで…今のお前の本音は、一体どこにある?」
先生の言いたい事は分かる。会場の端にいる私は会場をぐるりと見回す。
ゆう君は会場の真ん中にいつのも友人グループと一緒にいて、笑っている彼を見て私は少しだけホッとしていた。
私が泣いた事とその後の授業で彼を避けてしまったことで、私が彼を傷つけてしまったことは事実だったから。
そんな事を考えながら、ぼんやりと眺めていると、彼と目が合った。
彼の姿をちゃんと見たのは、2月の最終授業だから…それ以来もう1ヶ月は経っているのだから、時が経つのはやいと思う。
一度、目が合った私達だが、彼の方から目を反らされてしまった。それが今の私達の現実。
そうなることは、私自身、一番分かっている。その場に立つと…やっぱり悲しい。
「いいのか?」
「うん。このまま終わると思うよ。今は、どうして別れるって言ったかは聞きたくない。私が…まだそこまで受け入れられないからね。だって…私、ゆう君の事まだ好きだもの」
「だったら、全てをさらけ出して、縋りついてみたらどうだ?」
小森先生は、私に強がるなと言ってくれる。先生の言いたい事も十分な位に分かる。
「そこまでしたら、彼は逃げるような気がする。進学する学校も反対方向なんだから、私が連絡を取らなければ、会うのは今日が最後になる。だったら…ここから彼を見てから帰る。それに…さよならは別れじゃないと思ってるから」
「そうだな、それは一理あるな」
先生は、私の頭をポンポンと撫でてくれる。少しだけ心が温かくなる。
「それにね、好きじゃなくなったとは言われたけど、嫌いとは言われていない。いつになるか分からないけども、将来再開した時に笑って久し振りと言える方がいい。だから…もういいの」
私はきっぱりと言い切る、これが自分なりに決めた私の答え。嫌われていないだけいい。
だったら後は時間が私達を成長させてくれるだろう。そう思っていた。
「そっか。1ヶ月かかった答えがそれか」
「うん、先生、心配してくれてありがとう」
「いいや。あの日はあんなに泣いたお前の事を皆気にしていたからな。もう平気だな?」
先生は少しだけ不安そうに私の顔を覗き込む。やっぱり、あの日の大泣きは私のイメージを根底から覆してしまったようだ。やってしまったものはしょうがない。私はその現実を受け入れることにした。
「うん。あの頃よりは平気。もう泣いていないでしょう?」
「確かに。きっといい事もあるさ」
「S高で頑張るね」
そう言ってから私は先生と別れた。
ゆう君の側に行きたいけれども、行くのが怖い。私は結局会場の隅の壁に寄りかかり会場をぼんやりと眺めていた。
ゆう君は、今の私に何を求めているのだろう?そんな事を考えながら、ゆっくりと会場を見回すと、私と同じクラスになったことがある人がかなり来ていることに気がついた。
私とゆう君の事は確実に知られていると言う事は理解できた。
そんななか、私に向かって一人近づいてくる。ゆう君の友達の長居君だ。
多分、ゆう君の事で私に言いたい事があるんだろう。何を言われるのか分からない怖さはある。
「よう、佐倉」
「長居君、久し振り」
片手をあげて私を呼ぶのはいつものスタイルだ。
構えていた私は少しだけ警戒を緩めることにした。
「落ち着いたか?」
「そう見るのならそうなんじゃない?」
長居君に聞かれたことを私は思った通りに答える。少なくても今の会話には駆け引きめいたものはないはずだろう。
「何、壁の花をしているんだよ。お前らしくない」
長居君は今の私の状況を不思議と思っているようだ。仕方ないので、さっきまでの私の状況を説明することにした。
「それは…さっきまで先生と話をしていたから。それだけで意味なんてないわよ」
「ふうん、そう言う事にしておいてやるよ。それじゃあ、俺が隣にいてもいいか?」
私の説明を半分位しか信用していないってことか。仕方ないか。
「いいよって言う前に…もういるじゃない」
「それは確かに。相変わらずの辛口だなぁ」
そう言うと長居君は笑いだした。この人の笑いはどこに重点があるのか分からない。
授業の時も、一人で受けて笑っていたっけ。でもそれが長居君だから誰も怒らないの。
っていうか、怒るだけ無駄なんだもの。
「酷いわね。私はどこにいたって私じゃない」
「確かに、佐倉は佐倉か。そりゃそうだ。なあ、俺は佐倉に話したい事と聞きたい事があるんだが…今は大丈夫なのか?」
「今日は誰かと一緒にって約束は一切していないから平気だけど…」
長居君が私に話したい事と聞きたい事があると言う。私は警戒を最大限に引き上げる。
私が知っている真実でも明かしてはならない事もかなりあるのだから。
「ロビーに出た方がいいかしら?」
「いや、ここの方がいいだろう。これだけ五月蠅ければ、相当近付かないと聞き取れないだろうから」
私は長居君が何を言いたくて、何が知りたいのかするに理解した。
多分…あの日の私の知らない…ゆう君とひで君のことだろう。
そう考えると気が重いけれども、彼に関してだけは、私自身が原因の元凶なのは明白なんだから。
拒否権の発動なんてありえないから私は長居君に従う事にした。




