Let's go to him. side義人
義人とデートをすることになりました。
これをデートというかはかなり疑問がありますが、一緒にお出かけ位の気軽さでお付き合いください。
離任式が終わった翌日、私は家の前で義人君と待ち合わせをしている。
時間は朝6時30分。正直に言うとかなり早い時間だ。
何でこんなことになったかというと、昨日の離任式後に義人君と交わした会話が原因だった。
「なあ?ちい、明日って暇か?出来れば朝早く」
「毎日が開店休業みたいなものよ。なんで?」
「じゃあ、決まり。明日は俺と出かけようぜ」
「いいけど、どこに?」
「君塚に。通学電車に乗って実際に学校の側まで行かないか?」
「そうだね。学生はいなくても、通勤電車だから同じだよね。分かった行くよ」
確かに一度は言っておこうかなと思っていたから、私はその提案を難なく受け入れた。
「おはよう。とりあえず、お前も駅まで自転車だよな?」
時間通りに来た義人君に私は確認をされる。
雨でない限りは自転車で最寄駅に行く予定にしているから私は頷いた。
「それじゃ行くぞ。とりあえず、時間を計ろうな」
「そっか。そうだね。義人君、賢いね」
「へへっ、まあな。ほらっ、行くぞ」
義人君に促されて私達は駅に向かう事にした。
「思った割に早く着くんだな」
「そんなものじゃないかな。ただ、思った割に通りには車は多いのね。これは注意した方がいいみたいだね」
「そうだな。次が問題かな?」
「そっか。そうだね。今日はともかく、学校に行く時にはもっと混むのよね」
私達は電車に乗るために、ホームで待っていた。
「乗ったら、手を繋ぐからな」
「どうして?」
「ちいはすぐに人ごみにのまれそうだから…違うか?」
「そこは…否定できない。むしろ、自信があるかもしれない」
「ちいは昔から迷子になる才能があったしな。昔だってさ…覚えてるか?」
「そんな古い事を引っ張りださないでよ…」
「悪い。なんか、俺ってば浮かれているみたいで…あー、もうやだ!!」
「義人君。どうしたの?」
「だって、これってでーとみたいだろ?違うか?」
「そう言われたら、そうなのかな?だったら高校に入ったら毎日通学デートになるってこと?でも、私達はちっちゃい頃から二人きりでいる事は多かったでしょ?」
私は義人君に言った。
かつては、同じ町内に住んでいて、親同士も仲が良かったから私達は兄と妹の様に育てられた。
あの日がきて暫くの間…母親がなくなって暫くの間、感情がなくなってしまった私を見守ってくれたのは彼だろう。
いつもなら友達と遊ぶのを優先していた彼は、私といることを優先にしてくれた。
「ねぇ、よっちゃん。あの時はありがとうね。見捨てないでくれて」
「今更…なんだよ。その話はもうしないって約束だろ?」
「創なんだけども…久し振りにあの頃の夢を見たの。あの時はよっちゃんが私を笑わせてくれた。今度は…」
「それはお前次第だろ?無理する事はない。久し振りだな。お前がよっちゃんって呼ぶの」
「だって…今は私達しかいないでしょ?だったら…いいかなって」
彼に言われて、変に意識してしまって私は俯いてしまった。
かなり長い間、彼の事をよっちゃんと読んでいなかったが、久し振りに読んでみたかった。
「まっ、今日はそれでいいや。ほらっ、電車に乗るぞ」
よっちゃんは私の手を取って電車に乗り込んだ。
「すっごく混むのは、最初の10分なんだね」
「本当だ。君塚に着くころにはかなり楽だな」
「これ…千葉方面に通学しないで正解だったかも」
「そうだな。3年間は一緒に朝は通うか?」
「いいの?」
「ああ。でも、お前本当に一人なんだな」
「うん。そうなりたかったの。誰も知らない所にね、私は行きたかったの」
「理絵がいるのは…アレだよな…」
「仕方ないよ。一学年400人だから、大丈夫だよ。同じクラスになる可能性があるのは1年生だけだもの」
「なんだよ?それ?」
「2年生になるとね、文系か理系に別れるの。私は…文系に進む予定だし…」
「理絵は…薬剤師か。なら…1年だな。頑張れるか?」
よっちゃんは私を見ている。
「よっちゃん…まずは受け入れたよ。次は向き合う事になると思う。それに、なお君もいるし」
「そっか。広瀬先輩に頼るのか。生徒会か?」
「分からないけど、そうなると思う。多分ね。今度は…何があっても戦うから。もう…逃げない」
「何かあれば、相談しろよ。分かってるよな?」
よっちゃんの言いたい事は分かっている。
「お前は…昔からすぐにため込むから。側にいたくなる。ほらっ、こっちに来いよ」
よっちゃんが、ちょっと強く私の腕を引く。
私の体は電車のドアとよっちゃんに挟まれてしまった。
私の目の前にいる彼は、一緒に手を繋いでいたかれではなくて知らない男の人の様にも見えた。
今まで無意識に目をそむけていた現実にどう対処していいのか分からなくなる。
「お前…いい匂いがする」
「そんな事ないって。よっちゃんも…手がすごく大きくなったんだね」
私か彼の手を取ってまじまじと見つめる。
「うーん、そうだなぁ…。お前の頭をこうするためさ…えい!!」
そう言うと、彼は私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「酷い!!何すんのよ」
「お前はまだ…お子ちゃまでいいんだ。このちびすけ」
そう言うと、今度は両手で頬を引っ張られる。
「すっげぇな。お前。良く伸びる」
「痛いってば。もう、よっちゃんの意地悪!!」
私は頬を膨らませて、よっちゃんを睨んだ。
「わりぃやりすぎたな。何かおごるからさ…」
よっちゃんが、焦って謝り始める。どうしてやろうか…私は、ふと閃いた。
「だったら…モスバーガーで何か奢ってね」
「えっ?」
「じゃなければ…創君によっちゃんにいじめられたって言うもん」
「なっ、なんで、そこに、創が…」
「創君からね、ちょっちゃんに何かされたらすぐに言いなさいって言われたの」
私は努めてにこやかによっちゃんに言う。
「…ったく。分かったよ。創の奴には絶対に言うなよ?」
「どうしようかな?」
「頼むから…この通り…」
そんなやり取りをしている私達をのせた電車はひたすら君塚に向かうのだった。
ちゃんと高校の側まで行ったあとにお腹一杯に食べたというオチで(笑)




