Let's try!! 7
…商業高校。私のおじ…同居している方じゃなくってね、商業高校で先生をしているんだ。このおじに鍛えられてこれでも一応珠算初段は持っているの。でも、受験したとしても絶対に落とすって言われたら…普通は受ける?」
「俺なら受けない」
「だから、他の学校は学力さえあっていれば本当にどこでも良かったのよね。それから、忘れていた。誰も行かなそうな学校も選択肢にしてたっけ」
「確かに、俺らの地域で君塚に好んで行かないよな。それよりも…お金の話はどこから?」
「それは、私が両親の遺産を相続したからでしょ。違うかしら?」
私はとも君に逆に聞く。多分…この程度は知っているはず。
「話を聞いていると、ちいちゃんの場合は、お金にすぐに出来ないものばかりだよね?」
「まあ、そんなところね。でも、生命保険とか事故の慰謝料とかあるからさ…。でも、そのお金は私が生きていく為のお金だから無駄には使えないんだけどね」
「誰がそんな事を言うんだよ」
とも君が憤りを隠さない。自然と声が大きくなる。
「まあまあ。トーンダウンしてね?今だって、この場に誰がいるのか分からないのよ。誰という訳じゃなくって、私の事情をきちんと知らない人…皆そうでしょう?そんな事を気にしていたら、私の方がおかしくなっちゃうよ」
笑って、私は答えた。
「なんで、そんな大切な事を話さないんだよ」
ともくんが私の目をジッと見る。
「なんか、不幸自慢みたいじゃない。同情して欲しいわけじゃないもの」
確かに不幸かも斗思った時はあったけど、自分より不幸な人もいるはずと思って、私はあの日から生きてきた。
私が欲しいものは同情なんかじゃない。二度と手に入らないものだ。
ないもの寝たりをしたら貰えると思っている様な子供でもない。
生きる為には、多少の諦めが必要な事も分かっていた。
「やっぱり、ちいちゃんは強いなぁ」
ともくんは、そんな私に感心しているみたいだ。
「強くなんかない。本当は投げ出してしまいたい位」
私は静香以外に初めて自分の本音を言ったのかもしれない。
私は絶えず人に見られていると思っていたから、人の目ばかり気にしていた。
世間で言う所のいい子であったとも思う。
ひょっとすると、そんな事を長いあいだし続けていた自分に疲れてたのかもしれない。
でも、何でとも君にこんな事を話しているのだろう?
そこのところが、自分にとっては不思議だった。
「頑張らなくていい」
「えっ?」
「ちいちゃんは…そのままでいい」
「何の事?とも君?」
「皆の前では無理ならば、僕の前だけでは、今のちいちゃんでいて欲しい」
「うん…分かった。努力する。ありがとう」
私は小さくうなずいた。ずっと冷たいままだった心が少しだけ温かさを感じる。
「いつかは分からないけどさ、そのうち…等身大のちいちゃんを見てくれる人がいるさ」
「そうかなぁ?」
「うん。今はむりだとしても。それまでは俺や創先輩や義人先輩たちがいるからさ」
とも君は、私を見て微笑む。今の彼の言った事を信じてみようかなと思える。
「でもね、3年間は恋はしないって決めたの」
「なんで?勉強だけでいいって事?」
私が言ったことに驚きながら、とも君は不安そうな目で私を見ている。
「違う。多分。恋はすると思うよ。自分にないものを求めるんだもの。今までだって、ひで君には自由な所を、ゆう君には爛漫な所を求めたんだと思う。ゆう君との間は誰かの悪意があって別れたでしょう?」
「ああ、そうだな。今でも、彼が好きなのか?」
「嫌いにはなれない。けれどもあの頃の様に好きでもない。そうやってなかった事になるんだと思ってる自分がいる」
「それでいいのか?」
「そうするのが、互いに傷つかないんだと思う。私が傷つくのはいいけど、彼には傷ついて欲しくないから」
「分かった。それ以上は、俺はもう言わない」
「今回のトラブルで観戦に終わると思いたいけど…思いきれるだけの自信がない。
「なに?まだ続くと思っている訳?」
「うん。悪いけどね。暫くは学校に慣れるが先だけど、私が今回の事件の黒幕だと思っている人が本当にそうならば、早い時期に何かを仕掛けて来ると思うから」
「それは、たらればのはなしだろ?そこまで考える必要あるか?」
「本当は必要ないかもね。でも、それだけ、私がギシンアンギになってる事も分かって欲しい。つい、味方なのか?敵なのか?ってチェックしながら行動している自分がいるのよ。そんな自分が今は一番嫌いだわ」
もう、誰も疑いたくはない。
けれども、子供のころに裏切られた事がこんなにもトラウマになっている事は本当は誰にも気づかれたくなかった。
「じゃあ、もし、続いていくようなら?」
「それが続かないように…恋をしても…その気持ちを封印する」
「そんな事が出来ると言うのか?」
「分からない。私、今度は私が恋する人、愛しい人を守りたい。別れることでゆう君は私を守ってくれた。だから…だから私は自分が好きになった人が傷つかないように私は守りたい」
「とれが、今のちいちゃんの結論ならば俺はそれを受け入れるよ。ところで相手は特定しているの?」
「恐らくって人はいるけれども、明確な証拠がなくってそのままになっている。高校に入ったら気を引き締めないといけないわね」
「やっぱり…俺、来年S高に行く。1年は悪いけど兄貴で我慢してて」
「とも君、それは気にしすぎだよ。私の事は、自分でどうにかするから。高校入試には後10ヶ月はあるんだし、ゆっくり考えなよ…ね?」
「そうだね。分かったよ。今は…そう言う事にしておくよ」
「何?最後に言ったの良く聞こえなかったけど…」
「なんでもないよ。さっさと食べようよ。ちいちゃん」
とも君に促されて、私達はトレイの上に残っているポテトを食べた。
これから先、何があるか分からない。
だからって怖がってもいけない。
少しだけでもいいから歩いていこう…まだ分からない明日に向かって。
第1章本編終了になります。
全開でサブ二人が言っていた番外がくっつきます。
いつもならパラレルですが…最初のプチトラブルの引き金になってしまうのです。
(おっと前倒しなネタバレだったけど…いいか)
これで中学編は終了です。無理やりに隠していたり、ぼかしたりしてますが…
そこは仕様という事でご理解下さい。
最終回までには分かると思います。




