I will graduate something? 何を卒業するんだろう 19
第二音楽室に私達は行くことにした。
防音の第一音楽室は先生達のバンドが使っている。
第二音楽室は、アップライトのピアノがある。
けれども、防音じゃないから私達が何をやるのかが分かってしまうのだった。
もうすぐ本番なのだから、そこまで気にしなくてもいいんだけど。
少しだけ発声練習をしてから、私は静香にアイコンタクトを送る。
私はゆっくりと目を閉じてイメージをする。
ゆう君に出会って…ゆう君に恋をして…ゆう君と付き合い始めて…笑っていた自分を。
静香の奏でるピアノの音が聞こえてくる。
大丈夫、私は歌える…私は自分に言い聞かせる。
それから私はゆったりとしたリズムで歌い出す。
歌詞の中に彼に恋をしていた時の気持ちを添えて。
ずっと一緒に。いつまでもそばで…。
「すごいじゃない。佐倉さん。良く頑張ったわね」
音楽の岩城先生も私にドレスを貸してくれた栗山先生も私を褒めてくれる。
「アカペラの方がムードが出ていいわね。こっちでいきましょう。佐倉さん、いい恋してるのね。それは…今もかな?」
いたずらっぽく目を輝かせて先生達は私を見ている。
いい恋…もう私には…何もない。
いきなり現実に引き戻されて、私は-やあ!!-と叫び床に座り込んだ。
私の姿を見て、静香が駆け寄る。
「ちい…泣いていいよ。ちいは悪くないんだから」
静香が私を抱き寄せて、子供をあやすように背中をポンポンと叩く。
「佐倉…もしかして…」
それ以上、先生は何も言わなかった。
けれども、大人だもの。気付いているよね。
あれから、一か月たっているのに、心が不安定なバラバラな自分がいる。
自分でもどうしたいのか…それすらまだ分からない。
「どっ、どんなに私がまだ想っていても、彼は私の元には戻って来ない。静香…あの日見てたでしょう?」
「佐倉…心は女性になったのね。みんなよりちょっとだけ早いかな?」
岩城先生は私の側に来て座り、私の頭を撫でた。
「…早いのって、いけないことなの?」
私は不安げに先生に尋ねる。
涙でぐしゃぐしゃな顔に触れて涙を拭ってくれる。
「これ以上泣くとメイクが大変よ?恋に、早いも遅いもないわ。心も体も完全じゃないから、今見たく辛くなるのは皆一度は通る道だから…ね。お互いに成長できる恋なら、先生は反対しないわよ。佐倉は成長したの。だから、今…アヴェ・マリアが辛いのね。ねぇ?彼の事は今でも好きなのね?」
「嫌いに慣れたら…楽になれるの?」
ようやく涙の止まった私をmちえ、岩城先生は優しく続ける。
「どうかしらね。佐倉はそう思うのかな?質問を変えようか?佐倉は…彼を好きになったことについて後悔しているのかな?」
私はその答えとして首を振る。
もしも…後悔したとしたら…彼に恋した自分を否定することになってしまう。
そんな事…そんな事は私には出来ない。
「今は無理でも、必ず彼に恋して良かったと思える日が来るから、その日まで彼との幸せな思い出の中で生きてもいいと思う」
「すごくその人を想っているのが聞いてい良く分かったわ」
「ちいがさ…彼と手を繋いで、笑いながら話したりするイメージができたよ。ねぇ…もう一度ここで歌って。私、あの3人にも今のちいの歌を聞かせたいから、連れて来るわね」
そう言うと、静香は廊下に出るため、扉を開けた。




