I will graduate something? 何を卒業するんだろう?13
私は目を閉じてから、ゆっくりと息を吐いた。
ねぇ…ゆう君。離れていても目を閉じたらすぐに思い出せるよ。
まだ、想いが溢れる位…ゆう君が好き。狂おしいほど好き。
やっぱり…まだ…忘れられないよ。
そんな想いを歌詞に載せながら、私は歌いきった。
自分が入り込んでしまったせいか、呆けてしまっている私に向かって静香が走り寄ってきて抱き寄せた。
「ごめん…やっぱり辛いよね。でもね、今のが先生の求めている答えになってると思う。辛いけどこれでいこうよ」
「ちい…お前ってやっぱりすげえな。俺、鳥肌が立ってきたぜ。くそぉ…恋ってすげえな」
「そうね。あんなちいの顔…初めて見たよ」
二人に矢継ぎ早に言われて、私は戸惑ってしまう。
自分がどんな顔をしているのかなんてで見たことないから知らない。
「どんな顔?」
「説明するのが難しいんだけども…すっごく可愛いかったの」
ん?可愛いと?申し訳ないが更に分からなくなる。
「すっごく可愛くおねだりしたりする姿が思い浮かべた。それにベタベタな感じで。ちょっとやりすぎじゃないか?」
「そう?でも、今の解釈の方が絶対にいいから。創は今までの歌を聞いていないから言えるんだよ。いい?これでいいからね」
歌っている綿祖をそっちのけで静香と創君が言い合いを始めた。
「だから、せめてもう少し控えめの方が良くないか?」
「そんなことないよ。この位でいいって」
「絶対にちいはさ、いちゃいちゃしているところを想像してたろ?」
「別にいいじゃない。その位。第一、創は真面目すぎなの!!もうコレだから…。ちいは何を想像していたの?」
確かに、創君の言う事も一理あるかもしれない。
恋愛に免疫のない人だったら確実に赤面ものなのかもしれない。
私は今になって恥ずかしくなってしまい、俯いてしまった。
「愛する人に伝えるイメージなんだからいいじゃないよ」
「でもよぉ…ってちい、お前そこで照れるな。こっちも赤面するだろうが」
人に散々駄目出しをしておいて、それはちょっとあんまりじゃないかな。
「私が思い浮かべたのは、彼とほほ笑んだり、手を繋いだり…程度で。後はまだ好きなんだって自覚させられた…だけよ」
「それ以上は…もう言うな。私達にはそういう経験がないんだから」
「だから…私は知らないよって言ったのに…」
私は口を尖らせた。こうなるとどんどん墓穴を掘ることになりかねない。
この事はもう終わりにしたいなぁと切に願っていた。
「そういえば、俺も義人も雅子も一緒だけど、お前も全て日本語じゃないんだな」
創君が話の方向を変えた。少しだけ私はホッとしていた。
「そうだね。先生と組んだときから、日本語ではない事は覚悟してたよ」
「そうだったんだ。俺からしたら嵌められたって所だけどな。それよりも服装の指定ってなんなんだ?」
創君は、舞台の時の服装の事を言っている。私と静香は黒のワンピース、雅子ちゃんは黒のパンツスーツで創君と義人君は先生から黒のスーツを借りるそうだ。
「いいじゃない。楽しもうよ。ちいの方が大変よ。急遽曲を増やされたんだから」
「そっか。アメージンググレースか」
「うん。でもすぐに歌っちゃうし、これは歌詞を見れるからいいよ」
静香は知っているけど、創君はそのことを知らなかったらしい。
仕方ないよね。決まったのは皆でリハーサルした3日前の後の話だったから。
「ふぅん、それならいいけどさ。大丈夫か?」
創君は私のことを心配してくれているみたいだ。それよりも自分はどうなだろう?
「私は大丈夫。楽しもうよ。皆で出来るの…コレが最後だから」
私はそう言うと二人は黙ってしまった。
「ところで、ちいは歌詞を覚えたのか?」
「もちろん、アベマリアとジョイフルジョイフルは頭に入ってるよ」
「記憶力がいいからいいよな。俺さ、ゴスペルのリズムがとれなくって…すっげぇ不安なんだけど」
創君が不安を口にする。皆で歌うのはゴスペルだけども、リズムに慣れないと難しいかもしれない。
「大丈夫だよ。この曲は第9の歌唱が元の曲だから。創君だって歌えるよ。いざとなったらハミングでいいって岩城先生言ってたでしょう?」
「そんなんでいいのかよ?」
「いいんだって先生がいっているんだから」
創君の不安は何とか解消できたらしい。
「それにしても、ちいがボイストレーニングとはね」
「うん。歌うのは好きだから、それと英会話やろうかなって思ってる」
「お前…S高ってかなり授業が多くなかったか?」
「そうだね。でもこういう事で着るのって1年生じゃないと無理だと思ってるから」
「ふぅん。お前の事だから、計画してやるんだろ?」
「もちろん、のんびりとやりたい事をやる予定だよ」
私は二人に宣言した。校則違反じゃない程度にはのんびりとやりたい事をする予定だ。
「びっくりするぜ」
「何が?」
「ちいのアヴェマリアさ。皆が聞いたらさ」
「そうかな?そんなことないと思うよ。普通でしょ?」
「ここだけの話だけども…ちいはウエディングドレス着るんだよね」
「ドレス?」
「うん、実はね。ある先生のウェディングドレスを借りるんだ」
「なんか、俺らが最初に聞いていたのと方向がかなり違うんだけども」
「創…それはね、リハーサルの後で衣装合わせしたじゃない?その時にワンピースじゃちょっと寂しいって話になったの」
「だから、白い綿のワンピースにバニエを入れてなんちゃってドレスにしようと思ったら、学生時代に部活で作ったドレスを貸してくれることになったの。凄くない?」
「それは着れたのか?」
「うん、一応着れたんだけどね…くすくす」
静香は私を見てくすくすと笑っている。
「何を静香は笑っているんだ?」
創君は分からないみたいで静香に聞いている。
「うるさい!!何をしたって、胸に綿をつめるのは仕方ないでしょう。そのうち…うわ~ん」
「俺…そこはノーコメントってことでいい?」
創君はチラリと私の胸元を見た。どんなに寄せたって集めたってAカップで悪かったな。
私はちょっとだけ創君を睨んだ。酷過ぎる。
「ところでヴェールは?ティアラは?」
「ヴェールは作ったの、近くで見たら布ななけどね。ティアラはワイヤークラフトでちょこっと作ってみた」
私か紙袋に入れて持ってきたティアラを取り出した。
ワイヤーにビーズを通して、光が反射しやすいようにワザと作った。
「本当に、ちいはこういった細かいものが好きだよな。終わったティアラはどうなるんだ?」
創君に聞かれて、私は気がついた。
そう言えば…使った後の事…考えていなかった」
「そんなに大きくないからバラして何か作ろうかな。それにちいはカツラ被るんだよね」
今の私はショートボブ…分かりやすく言えば肩のラインで切り揃っているおかっぱ頭。
「そこまですると、ちいだと分からないじゃないか」
「いいのよ。そこが目的なんだもの」
「そうよ。それでいいのよ」
私と静香は笑って答えた。
「お前ら…遊んでいるだろう?」
創君は、私達を見て呆れていた。気持ちは分かるけれどね。
「皆だって、楽しんで発表するんでしょ?だったら私達がそうしたっていいと思うの」
「そう言われたらそうだな。俺らの企画は…誰にも被らないみたいだな」
今回の発表は何をしてもいいルールだ。
だから、モノマネをやるグループもいるし、手品をやるグループもいる。
皆、当日のお楽しみと言う事で基本的に教えてはくれない。
「でも…俺達、お金かけ過ぎてないか?」
「そうでもないよ。先生たちは使ったみたいだけど。それよりも食べる?」
私は二人にのど飴を渡す。
「お前なぁ…緊張感ねぇの」
「ありがとね。喉は大事だものね」
「先生がうちの企画は私の喉次第って言うんだもの。プレッシャーにならない方がおかしいよ」
私は少しだけ…うんざりしていた。
皆より局数が多い分、練習が厳しかったからだ。
「一番ノリノリは…本当は岩城先生かもね」
~卒業生は開始10分前です~とアナウンスが流れる。
「鍵は?」
「今日はそのままでいいって。さあ、教室に戻ろう」
私達は慌てて教室に戻った。




