I will graduate something? 何を卒業するんだろう? 5
「よくやるわ。三人とも」
私と創君にしか聞こえない声で静香が呟く。静香も一枚噛んでるくせに。そんな姿を見て苦笑する。
「少しだけ笑えるようになったな」
創君はそんな私を見て言う。
「いつまでも、泣いたってどうにもならないもの。これからは一人で生きていくんだから」
「その考えには待った。一人でも俺達がいるんだからな」
「大丈夫。分かってるよ。智子ちゃん、どうしてる?」
「あぁ。そろそろ始まるぞ。俺ら企画のバレバレな芝居がな」
「私に尻拭いしろって言う?」
「それはしない。その代わり、全部を担任に話す」
創君は私をまっすぐ見る。決意は固いみたいだ。
「先生、私の事だけは知ってるよ。だから、理絵がクラス中を引っ掻き回していることだけ言えばいいよ」
「なんだ。言ってあるんだ」
「もちろん。私一人だけの問題の時は一人で処理しようと思ったんだけども。もう私一人の問題ではなくなってるからね」
「そうだな。ちい一人が抱えることじゃないな。N高受験組を全員敵に回したんだから」
私はN高受験する人を思い出してみる。創君もそうだけど、怒らせてはならないメンバーが何人かいる。あまりキツイ言い方をしない創君がああ言うんだから、相当怒っているのかもしれない。
「理絵の件はそっちに任せるよ。一言は言わせて欲しいけど」
「分かった。全部言っておけ。暫くは分からない問題は全て理絵に質問する大作戦だから」
「その作戦名はどうなんだか。何かあれば私も参戦する。楽しそうね」
「ちい、早く笑えるといいな」
「ん?なんで?」
「あの日以来というか、相当笑っていないだろう?ずっと眉間の皺が入ってるし」
「そうだった?気がつかなかった。気をつけようっと」
「俺、ちいの笑っているところが好きだから」
「えっ?」
創君のいきなりの告白に私はびっくりする。
「これ、告白じゃねぇから。確かに昔は好きだった。でも俺が入り込む隙は全くなかったしな。あの話を聞いて納得した」
創君はそう言うと、私のおでこにデコピンをした。
「ほらっ、そんな顔をすんなよ。お前が自然に笑える日が早く戻ってくるといいな」
「ありがとう。創君」
私は創君にそう言うしか出来なかった。
結局、理絵は創君達の作戦に対して3日で音を上げた。なんて…打たれ弱い奴。
しかも、先生自分が意味もなく嫌がらせを受けていると訴えたそうだ。
先生も全てを知っているというのに…。あまりにも茶番すぎる。
そして、金曜日の放課後、一部の当事者が残って話し合う事にした。
その前日の木曜日、私や智子ちゃん達…クラスの一部が残って作戦会議。
先生の前では理絵は絶対に本心を言わないであろうと私達は考えていた。
だから、どうやって聞き出すかが問題なんだけども、どこまで聞けるかが不安だ。
念の為、机の下にテレコを入れて会話を録音しようという事になった。
そこまでするのがいいことなのか、切り札になるのか分からないけど。
そして、金曜日の放課後。私達が想像したように、理絵は被害者面をしていた。
「ねぇ、理絵。どうして今ここにいるか分かるでしょう?」
智子ちゃんが沈黙を破って語り始める。
「私何もしていないよ。皆が私に嫌がらせしているんじゃない」
理絵は白々しくもそんなことを言う。皆、すでに分かっているのに。
「理絵。自分の言ったことには責任を持って欲しいの。意味分かるよね?」
「私…何か言った?私が言ったように言っている人がいるんじゃないの?」
理絵はそう言うと、私を睨む。そのセリフは私が…言いたいぞ。
何がどうなるとそんな言葉が出てくるんだろう?
先生、私にはコミュニケーション能力が欠如しているんでしょうか?
それとも…いいや、考えたくない。周りを見ると皆うんざりとした顔をしていた。




