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異世界進化論!~チートスキルで全部系統樹的に解決したら、いつの間にか世界革命が始まっていました~  作者: 雨宮 徹


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商業都市マルーン

「ここがマルーンか」



 村の行商人ルイーゼからは「王国一の商業都市」と聞いていたが、その話とは違い、ひっそりとしている。名医シズクがいた村を思いださずにはいられない。第六感というべきものが「ここは危険だ」と告げている。だが、新たな知見を得るためにやって来た以上、何らかの成果が欲しい。



「ねえ、カイル。商工ギルドって、あれじゃないかしら」



 サナが指す先には茶色いレンガ造りの建物があり、そこは人の出入りが絶えない。



「ひとまず、情報収集も兼ねて行ってみるか」



 そんな風に会話していると、一人の男がひょこひょこと変わった歩き方で近寄ってくる。人に対して「エヴォ・ロジック」が使えるのなら、「死神」とでも表示されそうな、嫌な雰囲気をまとっている。とっさにサナを背中の後ろに移動させてかばう。



「旦那、ここは初めてですかい?」


「ああ、さっき来たばかりだ。あそこが商工ギルドで間違いないか?」


「それで間違いありませんぜ。それよりも、清めの塩はいらんか?」


「清めの塩……?」


「ここでは、病が流行っていまして。この塩があれば、病を清めることができるってことよ」



 男が差し出した塩に「エヴォ・ロジック」を使う。左目の復活もあり、分析に一秒もかからなかった。結果は単なる塩。これが効果を発揮しているのなら、マルーンはもっと活気があるはず。間違いない、混乱に乗じて儲けを企む人種だ。



「いいや、いらない。ギルドに用事があってね」


「そうですか。まあ、いいさ。あとで後悔するに違いないですぜ。そうそう、ギルド長のエルフは信用しない方がいい。薬草売りのくせに、病を止められていないのが、その証拠さ」



 それだけ言うと、再び独特な歩き方で別の通行人のところへ向かう。



「さて、ギルドに向かうか」





 商工ギルドの中は、人で賑わっていて「これこそ商業都市」という感じだ。



「うちで作った剣、買ってくれよ」「酒はいらねぇか?」「革製のベルトはいかがですか?」



 受付に向かうまでに何回も取引をすすめられたが、すべて断る。俺の武器は知性だし、酒はその動きを邪魔する。そして、身に着けいているベルトは、サナが森の素材を使って作った特別なものだ。



「村の領主から、ここへの紹介状を預かっているんだが」



 受付嬢は領主の紹介状にサッと目を通すと「ゼランさん、お知合いですよ」と、髪がボサボサの男に声をかける。ひょろりとしていて、背負ったかごには様々な食物が入っている。しかし、この男との面識はない。初めて会ったのに、受付嬢は知り合いという表現をした。謎である。



「俺はゼラン。あんた、カイルだろ? いかにも学者っていう顔をしている」


「ああ、そうだが。しかし、初対面のはず。彼女が言っていた、知り合いという言葉が気になるんだが」


「それか。村にいた行商人ルイーゼは、いとこでね。あんたの『各地の肥料が欲しい』という無茶ぶりに付き合わされていた一人が俺ってわけだ」



 握手の力が強くなる。振り回された分の仕返しだろう。だが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、隠し事をしない、表裏のない人物に見える。



「それで、そちらがエルフの奥さんか。いとこからは聞いているぞ。二人のいちゃつきぶりは、見ている側が恥ずかしくなるほどだ、と」



 行商人は一つ余計な情報を共有していたようだ。だが、サナとの間の愛情が人一倍強いという自負はある。



「さて、本題に移ろうか。お二人は、ここで様々なものに触れたいそうだな。だが、流行り病がマルーンを襲っている。長居はおすすめできない」


「ああ、その話は聞いた。ここに来る道中に清めの塩を売っている商人から」


「あの野郎、まだ怪しい商売をしているのか! あいつが塩を高値で売るせいで、料理に使えず、ワンパターンな食生活を強いられている。塩の代わりがあれば、俺の作物ももっと売れるんだが……」



 ゼランは、「ただのドレッシングじゃ、味の変化に限界があるからな」と、小瓶を振って嘆く。その中身、分析させてもらおうか。「エヴォ・ロジック」を発動すると、ビタミン類のほかにキラルという、初めて見る成分が入っている。さらにキラルの系統樹を分け入ると、将来的に甘いもの、辛いもの、塩気のあるものに変化していくらしい。塩気があれば、あの怪しい商人の邪魔はなくなる。



「ゼラン、そのドレッシングにガルの実を加えろ。塩に近い味になるはずだ」


「ガルの実!? あれは、苦いものだぞ? それに、ただの学者の言葉を信じろと?」


「そこはお前の判断次第だ。話を戻そう。どうすれば効率よく色んなものに触れられる?」


「そりゃ、うちのトップであるスビア様に聞くのが一番だな」



 商工ギルドのトップはスビアというのか。怪しい行商人の情報によればエルフらしいが。



「ただ、最近の長は憂鬱で、あまり外に出てこないんだ。会うのにも一苦労するだろう。まあ、頑張れ。これが、長の経営する『銀の天秤亭』への地図だ」


「ありがたい。サナ、行くぞ」



 サナはというと、何か思案しているのか反応がない。しかし、唐突に「花屋はどこかしら?」とゼランに聞くと「フリージアを買いましょう」と、半ば強引に腕を引っ張る。



「どうした、急に」


「カイル。長に会う秘策、教えてあげる」



 サナは、意味深にウィンクをする。何か作戦があるに違いない。



「サナに任せるよ」



 この時、俺は気づかなかった。サナの秘策がマルーンの運命を握っていたことを。

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