黄金蝶探し②
森の木々をかき分け、俺たちは道無き道をひたすらに進んでいた。
「せいやっ!」
サクラが一閃し、飛びかかってきたフォレストウルフを両断する。
俺も杖を振るい、横合いから現れたゴブリンに《スリープ》をかけて無力化する。
「もーっ! また雑魚ばっかり! 黄金蝶はいったいどこにいるのよ!」
イベント開始からもうすぐ一時間が経過しようとしている。だが、俺たちの成果は未だにゼロだ。黄金蝶どころか、それらしい光すら見ていない。
「……さすがに、おかしいな」
この島は広いとはいえ、数千人規模のプレイヤーが参加しているはずだ。それなのに、未だに「見つけた!」という歓声すら聞こえてこない。
この遭遇率の低さ……
ひょっとして、黄金蝶は俺たちが思っている以上に、希少な存在なんじゃないか?
「なあ、テレサ」
「なによ?」
「この一時間、これだけ歩き回って0匹だ。つまり、1匹見つけるだけでも相当な困難ってことだ。そう考えると……人数不足によるボーナスポイントって、俺たちが思っている以上にデカいんじゃないか?」
俺の指摘に、テレサもハッとした顔をする。
俺たち3人パーティは、規定の5人より2人少ないため、最終スコアに「黄金蝶2匹分」が加算される。
開始前は「たった2匹か」と思っていたが、この遭遇率の低さを体感した後だと、その価値は跳ね上がる。
0匹のままゴールしても、俺たちは「2匹捕まえた」扱いになるのだから。
「……確かにそうね。今の苦労を考えると、2匹分のリードってとんでもないアドバンテージだわ」
テレサは顎に手を当てさらに思考を巡らせる。
そして冗談めかして言った。
「ねえ、ガイっち。これならさ、いっそのこと5人パーティ組むより、ソロで参加した方が1位になりやすいんじゃない? 1人なら4人不足してるわけだし、最初から4匹分のボーナス持ちよ?」
「……ああ。ありえる話だ」
テレサの言葉は冗談半分だったようだが、システムを紐解けば、それは恐ろしいほど理に適っている戦術だ。
「いいか? よく考えてみろ。このボーナスは『最終スコアに加算』されるんだ。つまり、黄金蝶の現物を持っているわけじゃない」
「えっ、それって……」
「そう。所持していないんだから、PKされても『落とさない』し、『奪われない』んだよ」
俺の言葉に、二人が息を呑む。
通常のプレイヤーは、必死に黄金蝶を探し、見つけたとしても、PKされて奪われるリスクに怯えながらゴールを目指さなければならない。死んでしまえばマイナス1だ。
だがソロプレイヤーの持つ「4ポイント」は、システムによって保証された、絶対に減ることのない聖域の数字なのだ。
「極端な話、ソロで参加して、7時間ずっと茂みに隠れてやり過ごす。そして終了間際に、運良く1匹でも捕まえれば、それだけで合計5ポイント。PKのリスクゼロで、上位に食い込める可能性が高い」
「うわ……何それ。なんか、ズルくない?」
ゲームの趣旨からは外れているかもしれないが、ルール上はもっとも「賢い」戦い方だと言えるだろう。
「このイベント、真面目に探してる奴ほど損をする仕組みかもしれないな……」
俺とテレサがそんなゲーマー特有のシビアな視点で盛り上がり、空気が少しどんよりとし始めた時だった。
「もう! 二人とも! 悪い顔になってるよ!」
サクラが、パン! と両手を叩いて俺たちの間に割って入った。
「1人の方が有利とか、隠れてた方がいいとか、そんなのつまんないよ! 私たちは『トライ・ジョーカー』なんだから、3人で力を合わせて、正々堂々と見つけて、1位にならなきゃ意味がないんだよ!」
サクラは腰に手を当て、ビシッと俺たちを指差す。
「それにね。システム上の数字なんかより、3人で冒険してる今の方が、ずっと価値があると思うの! だからそんな暗い計算ばっかりしてないで、もっとワクワクしながら探そうよ!」
その純粋で、力強い言葉。
それは、効率やシステム論に凝り固まっていた俺たちの頭を、ガツンと殴るような一撃だった。
「……ははっ。参ったな」
俺は苦笑して、頭をかいた。
サクラの言う通りだ。
俺たちは効率を求めてここに来たんじゃない。この3人で、頂点を目指すために来たんだ。
「そうね! その通りだわ、サクっち! せっかくのイベントなんだもん、楽しまなきゃ損よね!」
テレサも憑き物が落ちたような笑顔を見せる。
「ああ。悪かったな、サクラ。システムにビビって弱気になってたみたいだ」
「えへへ、分かってくれればいいの!」
サクラが満面の笑みで頷く。
その笑顔が、俺たちの士気を再び燃え上がらせた。
「よし、探すぞ! 4ポイント持ってるソロプレイヤーがもし居たとしても、そいつが腰を抜かすくらい大量に捕まえてやればいいだけの話だ!」
「その意気よ! さあ、森の奥へ進むわよ!」
俺たちは顔を見合わせ、再び鬱蒼としたジャングルへと足を踏み入れた。
足取りは先ほどよりもずっと軽い。
見つからないなら、見つかるまで探せばいい。
単純明快な答えを胸に、俺たち『トライ・ジョーカー』の探索が再開された。




