黄金蝶探し①
上空に響き渡ったファンファーレの余韻が消えるや否や、運営のアナウンスが明るい声色でルール説明を始めた。
『それでは、本イベントのルールを説明いたします! 制限時間は8時間! この広大な島を駆け巡り、神出鬼没の「黄金蝶」を見つけ出して捕獲してください!』
8時間か。長丁場だが、MMOのイベントとしては標準的な長さだ。
問題はここからだ。
『なお、本イベント中にHPがゼロになり死亡してしまった場合、戻る必要はありません。その場で自動的に復活が可能です! ……ただし!』
アナウンスの声が悪戯っぽく溜めを作る。
『復活には30分間の待機時間が必要です! その間は移動も行動も一切できませんのでご注意を!』
「30分……!?」
テレサが顔をしかめる。
8時間しかない中の30分。それはあまりにも痛すぎるタイムロスだ。
もし序盤で死んで30分何もできなければ、その間に他のパーティとの差は絶望的に開いてしまうだろう。逆に終盤で死ねば、逆転のチャンスを完全に失うことになる。
つまり、このイベントにおける『死』は、通常の狩りとは比較にならないほど重いペナルティってことだ。
どれだけ効率よく蝶を集めても、一度のミスで全てが水泡に帰す可能性がある。
俺たちのような少人数パーティにとって、一人の離脱は致命的だ。絶対に死なない立ち回りが求められる。
『続いてランキングについてです! メニュー画面より、現時点での「黄金蝶獲得数・上位5チーム」をいつでも確認することができます!』
目標が見えるのは張り合いがある。
だが、アナウンスは続けた。
『ただし! このランキング情報はリアルタイムではなく、1時間ごとの更新となります! 順位の入れ替わりを予想しながら、ハラハラドキドキの駆け引きをお楽しみください!』
なるほど……。1時間ごとの更新、か。
これは厄介な仕様だ。
上位5チームに入れば名前が晒される。それは名誉なことだが、同時に他の全プレイヤーから「あいつらを潰せば順位が上がる」と認識されることを意味する。
1時間ごとに更新されるというタイムラグは、敵の位置や動向を読みづらくさせ、常に疑心暗鬼を生むだろう。
だが運営が用意した最大のスパイスは、最後の説明にあった。
『そして! 本イベントにおける最も重要なルールです! よく聞いてくださいね!』
一際大きな声が、島中に響く。
『もし、黄金蝶を所持している状態で死亡してしまった場合……その場に「黄金蝶を1匹」ドロップしてしまいます! 落とした蝶は、誰でも拾うことができますよ~!』
「……は?」
テレサが目を見開いて硬直する。
俺の背筋に冷たいものが走った。
「おいおい……マジかよ」
ドロップする。失う。誰でも拾える。
この言葉の意味するところは、単純明快だ。
「運営のやつ、とんでもないルールをぶち込んで来やがったな……」
30分の待機時間という重いペナルティも、このドロップルールと合わせれば合点がいく。倒された側は30分間動けないから、奪われた蝶を取り返しに行くこともできない。完全に「奪われ損」になるわけだ。
『それでは説明は以上です! 皆様、仲良く、そして激しく! 競い合ってくださいね~!』
アナウンスの呑気な声とは裏腹に、俺の胸中では警鐘が鳴り響いていた。
周囲のプレイヤーたちの雰囲気が、先ほどまでとは変わっているのを感じる。互いを見る目に、警戒と、そして獲物を品定めするような色が混じり始めている。
「嫌な予感がするな……」
特に俺たちは3人だ。数において劣る俺たちは、格好の「カモ」に見えているに違いない。
初期ボーナスとして2匹分が加算されるとはいえ、それは最終スコアの話だ。手持ちの蝶が増えれば増えるほど、俺たちは狙われる立場になる。
「ねえ、ガイ君……。なんか、周りの人の目が、怖い気がするんだけど……」
サクラが不安げに俺の袖を引く。
「……ああ。このルールのおかげで、ただの早い者勝ち競争じゃなくなった。これからは、他のプレイヤー全員が敵だと思った方がいい」
「望むところよ!」
テレサが好戦的に拳を鳴らす。
「あたしたちの邪魔をするなら、返り討ちにしてやるだけよ! 剣の錆にしてやるわ!」
「頼もしいが油断は禁物だぞ。さっきも言ったが、一度死んだら30分のロスだ。PKを狙ってくる連中も、それを分かってて仕掛けてくるはずだ」
俺は気を引き締め、杖の感触を確かめた。
身を守るための『骸骨王の支配杖』と、敵をハメるためのデバフスキル。これらを駆使して、生き残らなければならない。
『それでは! 大型イベント「黄金蝶探し!」……スタート!!』
パンパカパーン! という派手な効果音と共に、空に巨大な花火が打ち上がった。
それを合図に、海岸にいたプレイヤーたちが一斉に動き出す。
「行くぞ! まずは森の中へ入って、他の連中と距離を取る!」
「了解!」
「うん!」
俺たちは人混みを避けるように、鬱蒼と茂るジャングルへと向かって走り出した。




