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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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チーム名決め

「……もう、限界よ」


 テレサが、がっくりと項垂れながら呻く。


「『閃光の翼』もダメ、『煉獄の黙示録』もダメ……。もう、あたしの辞書に載ってるカッコイイ言葉は品切れよ……」

「私だって……。『ハニーシロップ』も、『もふもふ団』も却下されちゃったし……。もう思いつかないよぉ……」


 サクラも疲労困憊といった様子で、小さなため息をつく。

 俺たちはひたすらにチーム名を出し合っては、互いに却下し続けるという、不毛極まりない時間を過ごしていた。


「だから言ったろ。シンプルに『チーム・ガイ』とかでいいじゃないか」

「「それは絶対にイヤ!!」」


 俺の妥協案は食い気味に、そして見事なハモリで拒否された。

 どうやらリーダーの名前を冠するだけの安直なネーミングは、彼女たちの美学に反するらしい。


「だってさぁ、ガイっち。チーム名っていうのは、あたしたちの看板なのよ? これから1位を取って、伝説になるかもしれないチームの名前なのよ? 適当に決めるなんて、ありえないわ!」

「そうだよ……。もっとこう、三人の絆とか、私たちの特徴を表すような、素敵な名前がいいな……」


 二人の言い分も分からなくはない。

 だが三人の特徴を表す名前となると、これがまた難しい。

 防御特化のデバッファー、超火力のアタッカー、そして物欲全開の生産職。

 このバラバラな個性を、一つの単語で表現しろという方が無理難題だ。


「特徴……か……」


 ぼんやりと思考を巡らせた。

 俺たちは確かに変わったパーティだ。

 普通の攻略法を無視し、デバフと一点突破の火力で敵をねじ伏せる。

 セオリー通りのタンクもヒーラーもいない。

 その代わり、常識外れの『エクストラスキル』という、隠し球を持っている。


 普通のプレイヤーから見れば、俺たちは異端であり、イレギュラーな存在だろう。

 だがハマれば、どんな強敵をも食ってしまうポテンシャルを秘めている。

 まるでカードゲームにおける、最強の手札のように。

 あるいはルールを覆す、たった一枚のカードのように。


「……これなら、どうだ」


 俺の頭の中に、ある一つの言葉が浮かび上がった。


「ガイ君? 何か思いついたの?」

「おう。……『トライ・ジョーカー』。これはどうだ?」


 俺の提案に二人が顔を上げた。


「トライ・ジョーカー……?」


 テレサが、その言葉の響きを確認するように、口の中で繰り返す。


「ああ。『トライ』は、もちろん『3』の意味だ。俺たち三人で挑む、という意味を込めてな」

「うんうん、それは分かるわ。で、ジョーカーは?」

「トランプのジョーカーだ。切り札、そして最強のカード」


 二人を見回しながら、言葉を続けた。


「俺たちはまともな構成のパーティじゃない。人数も足りないし、役割分担も偏ってる。普通の奴らから見れば、ただの数合わせの雑魚に見えるかもしれない」


 俺の言葉に、二人は静かに聞き入っている。


「だが俺たちは『エクストラスキル』を持ってる。常識を覆す武器と防具を持ってる。そして何より、誰も思いつかないような方法で、格上のボスを倒してきた実績がある」


 妖精を一体も倒さずにデビルトレントを撃破し、ネクロマンサーの無敵バリアを破壊した、あの戦い。

 それは正攻法では決して辿り着けない、俺たちだけの攻略だった。


「俺たちはこのゲームというデッキの中に紛れ込んだ、規格外の異物……『ジョーカー』だ。どんなに不利な状況でも、たった一枚で戦況をひっくり返す、予測不能な切り札。……どうだ? 俺たちにぴったりだろ?」


 俺がそう締めくくると、一瞬の沈黙が流れた。

 そして――


「……くっ、くくく……」


 最初に反応したのはテレサだった。肩を震わせ、やがて堪えきれないように吹き出した。


「あははは! いい! すごくいいじゃない、それ!」


 テレサはバシバシと俺の背中を叩いた。


「規格外の異物! 予測不能な切り札! ああ、なんて甘美な響きかしら! まさに、このあたしに相応しい称号ね! 気に入ったわガイっち! その名前、採用よ!」

「痛い痛い、叩くな」


 上機嫌なテレサをいなしつつ、俺はサクラの方を見た。


「サクラはどうだ? 可愛い名前じゃなくなっちまったけど」

「すごく素敵だと思う! 『トライ』って響きもいいし、何より私たちが『切り札』だなんて……なんだかすごく強くなれた気がするもん!」

「そうか。気に入ってくれたならよかった」


 どうやら満場一致のようだ。

 あれだけ難航していたのが嘘のように、二人の顔には晴れやかな色が浮かんでいる。


「よし。じゃあ、チーム名は『トライ・ジョーカー』で決定だ。異論はないな?」

「異論なーし! さっそく登録しちゃいましょ!」

「うん! お願い、ガイ君!」


 俺はメニュー画面を開き、イベントエントリーのページを表示させた。

 チーム名入力欄に『トライ・ジョーカー』と打ち込む。

 文字が確定した瞬間、システム音が鳴り、登録完了のウィンドウが表示された。


 ――――――――――――――――――――――――

【イベントエントリー完了】

 チーム名:トライ・ジョーカー

 メンバー:ガイ、サクラ、テレサ

 ――――――――――――――――――――――――


「よし、登録完了だ」


 俺がそう告げると、二人は「やったー!」とハイタッチを交わした。

 その無邪気な姿を見ていると、俺の胸にも、明日のイベントへの期待と、心地よい高揚感が湧き上がってくる。


「ふふん、見てなさいよ他のプレイヤーたち! あたしたち『トライ・ジョーカー』が、イベント会場を嵐のように席巻してやるんだから!」

「うん! 私もジョーカーの名に恥じないように、精一杯がんばる!」


 サクラも小さな拳を握りしめ、決意を新たにする。


 トライ・ジョーカー。

 三人の切り札。

 急造の人数不足の、凸凹パーティ。

 だが今の俺たちなら、本当に何かを成し遂げられるような気がした。


「さあ、今日はもう解散して、明日に備えてしっかり休もうぜ。明日は長丁場になるからな」

「そうね! 睡眠不足はお肌の敵だし、最高のコンディションで挑まなくちゃ!」

「ガイ君、テレサちゃん、また明日ね! おやすみなさい!」


 俺たちは噴水広場で互いに手を振り、それぞれのログアウト場所へと散っていった。


 明日はいよいよ決戦の日。

『黄金蝶探し!』の開幕だ。


 インベントリの中にある『骸骨王の支配杖』と、装備している『守護樹の賢者ローブ』の感触を確かめるように、一度だけ強く拳を握った。


 不敵な笑みを浮かべながら、ログアウトのボタンを押した。

 視界が暗転するその瞬間まで俺の心は、明日への期待で激しく脈打っていた。

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