詳細ルール発表
大型イベント『黄金蝶探し!』当日までの数日間、俺たちはまるで何かに取り憑かれたかのように、レベリング作業に没頭した。
仲間探しは結局、うまくいかなかった。テレサのフレンドは皆、すでに固い絆で結ばれたパーティがあり、俺たちが入り込む隙はなかった。
広場で声をかけてみることも考えたが、見ず知らずの相手と、いきなり重要なイベントに挑むのは、リスクが高すぎると判断し、断念した。
「まあ、仕方ないわね! こうなったら、あたしたち三人で、他の五人パーティをまとめて蹴散らしてやればいいだけの話よ!」
俺たちはテレサが新たに見つけてきた、効率の良い狩場を転々とした。サクラの『強者の威圧』は、格下モンスターの乱獲において、絶大な効果を発揮した。
サクラが先陣を切って敵の群れに突っ込み、俺がデバフでサポートし、テレサが後方から漏れた敵を叩く。
その連携は日を追うごとにより洗練され、より強力になっていった。
そしてあっという間に、イベント前日。
俺たちはルンベルクの町の、いつもの噴水広場に集まっていた。
数日間の猛烈なレベリングの結果、俺のレベルは26、サクラは25、そして元々のレベルが高かったテレサは、30にまで到達していた。
短期間でこれ以上レベルを上げるのはさすがに厳しい。
俺たちはこの状態で、明日のイベントに挑むことになった。
「……結局、仲間、見つからなかったね」
サクラが少しだけ、寂しそうに呟いた。
「まあな。だが俺たちは、この数日で間違いなく強くなった。三人でもきっと、いい戦いができるさ」
俺がそう言って励まそうとした、その時だった。
それまで黙って公式フォーラムを眺めていたテレサが、突然、ばっと顔を上げた。その目は驚きとそして、新たな希望に、キラキラと輝いていた。
「あんたたち! ちょっとこれ見て! イベントの公式告知、更新されてるわよ!」
テレサは興奮気味に、俺たちに自分のウィンドウ画面を見せてきた。
そこには【『黄金蝶探し!』詳細ルール発表!】という、大きな見出しが躍っている。俺とサクラも慌てて、自分のメニュー画面から、公式ページを開いた。
「えーっと、なになに……。イベント専用フィールド……制限時間……黄金蝶の捕獲ポイント……ふむふむ」
ずらりと並んだイベントの詳細ルールに目を通していく。
そしてその中の一つの項目に、俺たちの視線は、釘付けになった。
【パーティ人数に関する救済措置について】
「……救済措置?」
俺たちは顔を見合わせた。
そして、その詳細な内容を読んで、思わず安堵の息を漏らした。
そこには、こう書かれていた。
1パーティの最大参加人数は5人だが、必ずしも5人である必要はない。1人からでも、イベントへの参加は可能である、と。
そしてさらに重要なことが、記されていた。
パーティの不足人数に応じて、最終スコアにボーナスポイントが加算される、というのだ。
「例えば、4人パーティの場合、1人不足しているから、最終スコアに、黄金蝶1匹分のポイントが加算される……。ってことは……」
「俺たち三人の場合は、二人が不足している。つまりイベント開始時点で、黄金蝶を2匹捕まえた状態から、スタートできるってことか!」
俺の言葉にテレサが、興奮気味に付け加えた。
「そうよ! もしソロで参加する猛者がいたら、その人は、いきなり4匹分のボーナスがもらえるってわけ! なによこれ、最高じゃない! 運営分かってるじゃないの!」
なるほどなぁ。
少数パーティや、ソロプレイヤーに対する、あまりにも手厚い、そして粋な計らいだった。人数が少ないというハンデを、アドバンテージへと変える見事なゲームデザイン。
イベントを盛り上げようとする運営の意気込みを感じる。
「ほー。もしかしたら本気で1位狙えるかもな」
「へへーん! 当たり前じゃない! あたしたち三人の実力と、ボーナス2匹分があれば、他のパーティなんて目じゃないわよ!」
テレサもすっかり、いつもの調子を取り戻していた。
俺は告知ページの続きを読む。そこにはイベント参加登録に関する、最後の項目があった。
「……パーティでイベントに参加するためには、事前に、チーム名を決めて、登録する必要がある……か」
「チーム名! いいじゃない! 燃えてきたわ!」
テレサがやる気満々の表情を見せる。
「よーし! あたしたちの、記念すべき初イベントのチーム名よ! かっこよくて、強そうで、伝説に残りそうな、最高の名前を考えましょ!」
しかしその意気込みとは裏腹に、俺たちのチーム名決めは、想像を絶するほど、難航することになった。
「よし、決めたわ! あたしたちのチーム名は、『終焉を告げる漆黒の戦乙女』よ! どう!? めちゃくちゃ強そうで、かっこよくない!?」
テレサが自信満々に、中二病全開のチーム名を披露する。
俺とサクラは顔を見合わせ、微妙な表情を浮かべた。
「え、えっと……。私はもっと、可愛い名前がいいな……。例えば、『ふわふわコットンキャンディ』とか……」
サクラがおずおずと、あまりにもファンシーすぎる名前を提案する。
今度はテレサが、顔を引きつらせる番だった。
「はぁ!? なによそれ! 全然強そうじゃないじゃない! そんな名前じゃ、敵にナメられちゃうわよ!」
「で、でも……戦乙女はちょっと、恥ずかしいよ……」
二人の意見は、完全な平行線だった。俺は、やれやれとため息をつきながら、自分の案を口にした。
「じゃあ、間を取って、『デバフで殴る』っていうのはどうだ? 俺たちのスタイルを的確に表してるだろ」
「「却下!!」」
俺の提案は二人に即座に綺麗にハモって、一蹴された。
「物騒すぎるわよ!」
「もっと、夢のある名前にしようよ!」
かっこよさを重視するテレサ。
可愛らしさを求めるサクラ。
そして実用性とインパクトを優先する、俺。
俺たちの好みは、見事に、バラバラだった。
その後も、『ブラッディ・ラビット』だの、『きらめき☆流星隊』だの、『デストロイ・アンド・リボーン』だの、様々な案が出たが、どれも、誰かが首を縦に振ることはなかった。
「もー! なんで、こんなに決まらないのよ!」
「うう……。チーム名って、難しいんだね……」
結局、日が暮れるまで俺たちは、噴水広場で、ああでもない、こうでもないと、頭を悩ませ続けることになった。




