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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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ドロップ品の性能

 翌日。

 俺とサクラは二人で連れ立ってルンベルクの東門をくぐっていた。

 今日の目的はレベル上げではない。昨日手に入れたあの忌々しくも強力なボスモンスターのドロップ品『支配杖の杖』の性能を検証するためだ。


「本当にここでいいの? ガイ君」


 俺たちがやってきたのは、ゲーム開始直後のプレイヤーが最初にスライムを狩るような穏やかな草原エリアだった。

 サクラは自分のレベルに全く見合わない狩場に少し不思議そうな顔をしている。


「ああ。今日の主役は俺でもお前でもない。こいつだからな」


 背中に背負った『支配者の杖』をトンと軽く叩いた。禍々しい宝石が昼の光を吸い込んで鈍くしかし確かに脈打っているように見えた。


「この杖の真価はもちろん【死拒の結界】によるダメージ無効バリアだ。それは昨日の戦いで嫌というほど実感できた。だが気になるのはもう一つの固有アビリティ……《サモン・アンデッド》の方だ」


 死者召喚。

 それはデバッファーである俺のスタイルとは少し毛色の違う能力だ。

 だがもし、召喚したアンデッドを壁役としてあるいは追加の攻撃手として意のままに操れるのだとしたら。俺の戦術の幅はさらに飛躍的に広がるはずだ。


「もしあのネクロマンサーが召喚したみたいに、たくさんのアンデッドを呼び出せるならすごい力になるよね……!」


 サクラも期待に胸を膨らませているようだった。

 俺は周囲に他のプレイヤーがいないことを確認すると、杖を強く握りしめスキルを発動させることにした。


「よし試してみるか。《サモン・アンデッド》!」


 俺がそう唱えると杖の先端の宝石が不気味な紫色の光を放った。

 そして俺の目の前の地面がまるで『嘆きの霊園』の時のようにもこりと盛り上がり腐った腕がぬっと突き出してきた。


『グ……ゥ……』


 地面から這い出てきたのは一体の見慣れたグールだった。

 その動きはやはりのそりのそりと緩慢で強そうにはお世辞にも見えない。


「……まあ一体だけか。それに見た目は普通のグールと変わらないな」


 俺は少しだけがっかりした。ネクロマンサーのように一度に数十体を召喚できるような派手な光景を心のどこかで期待していたのかもしれない。


「で、でも。もしかしたら見た目よりずっと強いのかも! ねぇ、あそこのフォレストウルフと戦わせてみようよ!」


 サクラが少し離れた場所で、木陰をうろついているフォレストウルフを指差した。ちょうどいい実験台だ。


「そうだな。よし行け! あの狼を食い散らかしてやれ!」


 俺は召喚したグールに命令を下した。

 するとグールは俺の命令を理解したのか、のっそりとフォレストウルフに向かって歩き始めた。

 だがその歩みはあまりにも遅かった。


「おせぇ……」


 フォレストウルフはこちらに気づくと、警戒するように唸り声を上げる。

 そして自分に向かってくるグールを一瞥したが、全く興味を示さなかった。それもそのはずだ。グールの歩みでは俊敏なフォレストウルフに追いつくことなど到底できそうにない。


 そしてフォレストウルフは邪魔な障害物でしかないグールを完全に無視して、その召喚主である俺に向かって、一直線に牙を剥いて襲いかかってきたのだ。


「なっ……! ヘイトがこっちに来るのか!」


 ある意味では予想通りだった。

 だが心のどこかで「特別なスキルだから」という淡い期待を抱いていたのもまた事実だった。

 俺は迫りくる狼の爪を杖で受け止めようと身構える。


「させないっ!」


 だが狼の爪が俺に届くことはなかった。

 俺が反応するよりも早く、隣にいたサクラが一瞬で俺の前に回り込みその鋭い爪をいともたやすく弾き返していたのだ。


 キィン!


 甲高い音と共にフォレストウルフが体勢を崩す。

 サクラはその一瞬の隙を見逃さない。流れるような動きで反転しがら、空きになった狼の首筋に吸い込まれるような正確無比な一閃を叩き込んだ。


「キャンッ!」


 断末魔の悲鳴を上げる間もなく、フォレストウルフは光の粒子となって消滅した。

 あまりにもあっけない幕切れだった。


「……はぁ」


 その光景を見届けた後、深く深いため息をついた。


「いい意味で予想が外れてほしかったんだがな……」


 俺の呟きにサクラが心配そうに駆け寄ってくる。


「ガイ君大丈夫?」

「ああ大丈夫だ。……ただ少し現実を思い知らされただけだ」


 俺はいまだにのっそりと、フォレストウルフがいた場所に向かって歩き続けている自分のグールを見つめた。

 今回の検証ではっきりしたことがいくつかある。


 まず召喚されるグールは弱い。そして致命的に遅い。

 これでは敵の攻撃を防ぐ「壁」にすらなりはしない。敵はこの鈍重な肉壁をやすやすと迂回して俺たち本体を狙ってくるだろう。


 次に一体ずつしか召喚できない。

 もしネクロマンサーのように、一度に数十体を召喚できるのなら、その「数」自体が脅威となり、敵の進路を妨害する壁として機能したかもしれない。

 だが一体ずつあの遅いモーションで召喚していては、数を揃えるのに途方もない時間がかかる。


 そして何よりもコストパフォーマンスが最悪だった。

 一体召喚するだけでMPを消費する。数を揃えようとすればあっという間にMPは枯渇するだろう。

 それに加えて【生命力の代償】という装備しているだけでMPが減り続ける呪いのようなデメリットがついている。

 大量に召喚すればMP消費の激しく、召喚スキルとMPが自然減少するデメリットとの相性は最悪としか言いようがなかった。


「……結論が出たな」


 立ち上がると召喚したグールをスキルの効果で消滅させた。


「この《サモン・アンデッド》は……現状使い道のない完全な『死にスキル』だ」


 きっぱりとした断言にサクラは少し悲しそうな顔をした。


「そんな……。でももしかしたらもっとレベルが上がれば、強いアンデッドを召喚できるようになったり……」

「かもしれないな。だがそれは未来の話だ。今の俺たちにとってこのスキルはリスクとコストに見合うリターンが全くない」


 杖をじっと見つめた。


「やはりこの杖の本体は召喚能力なんかじゃない。1分に一度あらゆる攻撃を無効化する【死拒の結界】。これこそがこの杖の真価だ」


 自分の考えを整理するようにゆっくりと言葉を続けた。


「だがMPが減り続けるデメリットはあまりにも大きい。デバフでMPを多用する俺にとって、この杖をメインウェポンとして常に装備し続けるのは得策じゃない」

「じゃあこの杖は……」

「ああ。使い方を決めた」


 もう一本の武器――テレサが譲ってくれたアビリティ付きの杖をインベントリ画面から取り出した。


「普段はこいつを装備する。MP効率を最優先しデバフで戦況をコントロールする。それが俺の基本スタイルだ」


 そして俺はもう片方の手に『支配者の杖』を握りしめた。


「そしていざという時。敵が俺の防御力をもってしても、受けきれないような必殺の一撃を放ってきたその瞬間。あるいは俺が絶対に倒れられない絶体絶命の場面でこの杖に持ち替える」


 スイッチウェポン。

 状況に応じて二つの武器を使い分ける戦術。


「持ち替えてバリアで攻撃を無効化し生き延びる。そしてすぐにまたメインに戻す。MPの減少を最小限に抑えながらバリアの恩恵だけを最大限に享受する。……これがこの杖の正しい使い方だ」


 俺の戦術を聞き終えたサクラは最初はきょとんとしていたが、やがてその内容を理解し、その瞳を尊敬の色でキラキラと輝かせた。


「すごい……! ガイ君そんなことまで考えて……!」

「まあな。デバッファーは頭を使わないとな。というか、こういう使い方を運営も想定してそうだけどな」


 死にスキルだと思っていた《サモン・アンデッド》。だがその検証をしたからこそ、この杖の本当の強みと正しい運用方法にたどり着くことができた。どんな経験も決して無駄にはならないのだ。


「よし方針は決まった! サクラ帰るぞ!」

「え、もう終わりなの?」

「ああ。今日の検証は終わりだ」


 片方の杖をインベントリにしまい、ルンベルクの町へと力強く歩き出した。

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