嘆きの霊園⑥
静寂を取り戻した『嘆きの霊園』。その中央で、俺たちは、サクラが拾い上げた一本の禍々しい杖を、固唾を飲んで見つめていた。
「よし見てみようぜ。あいつが、最後まで俺たちを苦しめた力の正体を」
俺の言葉に、サクラがこくりと頷き、その杖の詳細情報を、俺たち三人で共有するように表示させた。
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【武器】支配者の杖
MATK:250
・INT+10
【固有アビリティ】死拒の結界
この武器を装備している間、あらゆるダメージを一度だけ完全に無効化するバリアを自動で展開する。
バリアが破壊された後、60秒のクールタイムを経て、再びバリアが展開される。
【固有アビリティ】生命力の代償
この武器を装備している間、自身のMPが毎秒、最大値の1%ずつ、継続的に減少し続ける。
【固有アビリティ】死者召喚
アンデッド系のモンスターを召喚するスキル《サモン・アンデッド》が使用可能になる。
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「……なんだ、この杖……」
その驚くべき性能に、最初に声を上げたのはテレサだった。
「ダメージを……一度だけ、完全に無効化……? しかも、クールタイムはたったの1分!? なによそれ、チートじゃない!」
【死拒の結界】のアビリティは、まさに壊れ性能と呼ぶにふさわしかった。1分に一度、どんな大ダメージであろうと、
完全に無効化できる。それは、戦闘において、絶大なアドバンテージとなるだろう。
しかしその代償もまた大きい。
【生命力の代償】。装備しているだけで、MPが減り続けるという重いデメリット。長期戦になればなるほど、MPの枯渇は死活問題。まさに、ハイリスク・ハイリターンな装備だった。
「すごい……。でも、MPがどんどん減っちゃうなんて、使いこなすのがすごく難しそう……」
サクラもそのピーキーな性能に、少し戸惑っているようだった。
だが俺はそのアビリティの詳細を見て、別の、ある重大な事実に気がついていた。
俺は誤解をしていたのかもしれない。
「……なあ、二人とも」
「ん?」
「もしかして、俺たちがずっと解けなかった、ネクロマンサーの無敵バリアの正体って……」
俺は【死拒の結界】のアビリティ説明を、指でなぞった。
「特別なフィールドギミックなんかじゃなくて、ただ単純に、この杖のアビリティ効果だったんじゃないのか?」
俺の言葉に、サクラとテレサは、はっと、雷に打たれたかのように、目を見開いた。
「……え? ってことは……」
「ああ。思えばサクラの攻撃は、一回目も、二回目も一撃で終わっていた。もしあの時、二撃目、三撃目と攻撃を続けていたら……一撃目でバリアを破壊し、二撃目で、あっさりとネクロマンサー本体にダメージを与えられていたんじゃないか?」
「うそ……。じゃあ、あたしたち、ずっと、考えすぎてたってこと……?」
テレサが呆然と呟く。
そうだ。俺たちは、深読みしすぎていたのだ。
意味深に杖が光るもんだから「何か特別な複雑な謎解きがあるはずだ」と、無意識のうちに、思い込んでしまっていた。
だが答えは、もっとずっとシンプルだった。
その事実に気づいた瞬間、それまでの緊張感が、一気に、馬鹿馬鹿しさへと変わっていった。
「……ぷっ」
サクラ小さく吹き出した。
「あはは……! なんだ、そうだったんだ……!」
「あはははははは! なによそれ! あたしたち、めちゃくちゃ必死に、たった一回の攻撃を防ぐだけのバリアに、あんなに苦戦してたってわけ!?」
サクラとテレサが、お腹を抱えて笑い出した。その笑い声は、静まり返った墓地に、明るく響き渡る。
俺もつられて笑ってしまった。確かに、滑稽な話だ。俺たちは、自分たちで勝手に作り上げた幻のギミックに、必死で立ち向かっていたのだから。
ひとしきり笑った後、俺は、二人に、すまないという気持ちで頭を下げた。
「……悪い、二人とも。俺が変に深読みしすぎたせいで、無駄に苦労をかけさせてしまった」
俺が《理の崩壊》を使ったり、ディスペルの閃きを待ったりせず、もっと早く、この可能性に気づいていれば、こんなに消耗することもなかったはずだ。
しかし俺の謝罪に、サクラとテレサは、慌てて首を横に振った。
「ううん! ガイ君のせいじゃないよ!」
「そうよ! あの時は、無限に湧いてくるグールの対処で精一杯で、あたしたち、そんなこと考える余裕なんて全然なかったんだから! むしろ、ガイっちが色々考えてくれなかったら、今頃パニックになって全滅してたかもしれないわよ!」
二人は口々に、俺を庇ってくれた。
その優しさが少しだけ気まずく、そして、何よりも、温かかった。
「……そっか」
気まずい雰囲気を紛らわすかのように、サクラが、パン、と手を叩いて、話題を変えた。
「そうだ! この杖、ガイ君が使ってほしいな!」
「え?」
「だってこの杖、すごくガイ君に合ってると思うの! どんな攻撃も一回無効にできるなら、ガイ君がもっと安心して、敵の攻撃を引きつけられるようになるでしょ? MPが減っちゃうデメリットも、ガイ君なら、うまくやりくりできそうだし!」
サクラの提案にテレサも、力強く頷いた。
「あたしもそれに賛成! ガイっちが強くなれば、それはパーティ全体の強化に繋がるんだから! それにあたしは杖は使わないし、サクっちにはもう強力な武器がある。あたしたちには宝の持ち腐れよ。ここはガイっちが持つべきだわ!」
二人は一点の曇りもない、真っ直ぐな目で、俺にそう言ってくれた。
自分のことよりも、パーティ全体の強化を考える。そんな、最高の仲間。
「……本当に、いいのか?」
「「もちろん!」」
二人の声が綺麗にハモった。
俺はこみ上げてくる熱いものを、ぐっと堪えた。そして、差し出された『支配者の杖』を、しっかりと、両手で受け取った。
「……分かった。この杖、俺が預かる。ありがとな」
俺の言葉に二人は、今日一番の、最高の笑顔を見せてくれた。




