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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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嘆きの霊園④

 

「ああもう! キリがない! 倒しても倒しても、次から次へと湧いてくる!」


 テレサがグールの頭を砕きながら、悪態をついた。

 俺たちがどれだけ効率的にアンデッドを処理しても、後方で悠然と杖を構えるネクロマンサーが、即座に新たな兵隊を補充する。それは、決して終わることのない、不毛な消耗戦だった。


 サクラとテレサが、迫りくる死者の軍勢を必死に食い止めている間、俺は後方でデバフをかけ続けながら、この状況を打開するための一手を必死に模索していた。


「待てよ……。こいつが無限に雑魚を召喚し続けるというなら、逆にそれを俺たちの力に変えることはできないか……?」


 その時、俺の頭にある悪魔的な考えが浮かんだ。


「なあ、二人とも」

「なによ、ガイっち! こっちは手が離せないのよ!」

「もしかしたら、これ、最高のレベリングチャンスじゃないか? ネクロマンサーを放置して、こいつが召喚するグールをひたすら狩り続ければ、安全に、そして無限に経験値が稼げるんじゃないか?」


 しかし俺のその提案は、即座に、この狩場のプロフェッショナルであるテレサによって、一蹴された。


「甘いわよ、ガイっち!」


 テレサは、スケルトンの首を蹴り飛ばしながら、叫び返してきた。


「こういう召喚系のボスが生み出す雑魚はね、お約束なのよ! 経験値も、ドロップアイテムも、ぜーんぶ『ゼロ』に設定されてるの! つまり倒すだけ時間の無駄! さすがに、運営もそこまで甘くはないわよ!」

「だよなぁ……」


 やはりそんなうまい話はなかったか。

 だがそうなると、いよいよ手詰まりだ。ギミックが不明な以上、ネクロマンサー本体にダメージを与えることはできない。

 召喚される雑魚を倒しても、意味はない。このままでは、俺たちのMPと集中力が尽きるのが先だ。


「何か、何かヒントはないのか……。あの杖の光……。いや、それだけじゃないはずだ……。もっと、根本的な、ルールを覆すような一手が……」


 思考が袋小路に入りかけた、その時だった。

 俺の脳裏に、先ほど手に入れたばかりの、あのスキルが、閃光のように煌めいた。


「……そうだ。《理の崩壊》があるじゃないか」


 完全耐性を一度だけ、強制的に無効化するスキル。

 ネクロマンサーのあの無敵のバリア。それも、一種の「状態異常無効」や「ダメージ無効」という「理」によって成り立っているのだとしたら?

 このスキルで、その理そのものを、こじ開けることはできないだろうか。


「……試してみる価値は、あるな」


 覚悟を決めた。これは、大きな賭けだ。失敗すれば、大量のMPを失い、状況はさらに悪化する。だが、このままジリ貧になるよりはずっといい。


「二人とも、少しだけ時間を稼いでくれ! 俺があいつのバリアをこじ開けてやる!」

「えっ!?」

「本当!?」


 俺の言葉に、二人が驚きの声を上げる。

 その声に応えるように、全神経を、奥で佇むネクロマンサーに集中させた。そして、この戦いで、最大の切り札となるであろうスキルを、解き放った。


「理屈なんて知ったことか! こじ開けろ、俺の道! 《理の崩壊》!!」


 俺の叫びと共に、緑色の禍々しい光が、俺の手から放たれ、一直線にネクロマンサーへと飛んでいく。それは、バリアに阻まれることなくネクロマンサーの骸骨の体に、すーっと吸い込まれていった。


「よし、効いた!」


 手応えがあった。ネクロマンサーの体が一瞬だけ、びくりと痙攣したのが見えた。

 この好機を逃さない。効果時間が半減されることを考慮し、即座に次のスキルを叩き込む。


「お前には効かないはずの、精神支配をくれてやる! 《コンフューズ》!」


 混乱の状態異常が、理を崩壊させられたネクロマンサーに、今度こそ確実に突き刺さった。

 ネクロマンサーの虚ろだった眼窩に、赤い光が、チカチカと、まるでバグったかのように点滅し始める。間違いなく、混乱状態に陥っている証拠だ。


「そしてお前は、俺の操り人形だ! 《外道の戦術》!」


 混乱したネクロマンサーに向かって、命令を下した。


「その忌々しいバリアを、今すぐ解け!」


 一見するとネクロマンサーに、何の変化も見られない。杖の光も、相変わらず、不気味に明滅している。

 だが確信があった。《理の崩壊》からのコンボは、成功したはずだ。


「サクラ! 今だ! あいつは、もう丸裸のはずだ! とどめを刺せ!」

「うん!」


 俺の指示にサクラは一瞬の迷いもなく、再び、ネクロマンサーへと突撃した。

 グールの群れを切り裂き、一直線にネクロマンサーの懐へ。

 そして渾身の力を込めた『黒曜の星屑』が、再び、振り下ろされる。


 だが――


 キィィィィィィィィンッ!!


「きゃっ!」


 結果は先ほどと、全く同じだった。

 サクラの剣は、またしても甲高い音を立てて、目に見えない障壁に弾かれたのだ。


「なっ……!?」


 その光景に、愕然とした。

 弾き飛ばされ、体勢を崩すサクラ。

 そして、混乱状態であるはずなのに、その身を完璧に守り続けている、ネクロマンサー。


「……嘘だろ……?」


 確かに混乱させたはずだ。

 確かに《外道の戦術》で、命令を下したはずだ。

 それなのに、ネクロマンサーは、俺の命令を「無視」して、バリアを張り続けている。


 混乱はしている。だが、バリアは解けない。

 この矛盾した事実。

 それは俺に、一つの可能性を突きつけていた。


「もしかして……あのバリアは、ネクロマンサー自身のスキルや意志とは、全く関係のない、別の要因で発生している……?」


 例えばあの杖が、持ち主の意志とは無関係に、自動でバリアを展開する武器だったとしたら?

 あるいはこの「嘆きの霊園」というフィールドそのものが、ネクロマンサーを守るための、特殊なギミックとして、バリアを発生させているのだとしたら?


 だとしたら、俺がいくらネクロマンサー自身を操ろうとしても、意味はない。

 俺の《理の崩壊》という、絶対の切り札は、このギミックの前では、全くの無力。


「……スキルでは、どうすることもできない、純粋な『ギミック』……か」


 ただ強いだけのボスと戦っているのではない。

 このゲームの運営が仕掛けた、悪意に満ちた「謎解き」の、真っ只中にいるのだ。

 俺の切り札が、早くも封じられた。

 状況は再び、最悪の振り出しへと戻ってしまった。

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