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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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妖精の郷⑧

「――っつ!」


 背中を打ち付ける強烈な衝撃で意識を取り戻した。どうやら落下は終わったらしい。幸い受け身を取れたのができた。

 落下距離が思ったより短かったのか、HPは減っていないようだった。


「う……ん……」

「あれ……? ここ、どこ……?」


 俺の腕の中で、サクラとテレサが、うめき声と共にゆっくりと目を開けた。二人の瞳はまだ眠気で潤んでいるが、目の前に広がる異様な光景に、すぐにその眠気は吹き飛んだようだった。


「ガイ君! テレサちゃん! 大丈夫!?」

「いったたた……。何が起きたの? あたし、宴の途中で寝ちゃったみたいだけど……」


 テレサは頭を振りながら起き上がり、周囲を見回して絶句した。

 俺たちが落下したのは、薄暗く、湿った空気の漂う、巨大な空洞の底だった。上を見上げても、先ほどまでいたホールの光は遥か遠く、点のようにしか見えない。そして、俺たちの周りを囲んでいるのは、石や土の壁ではなかった。


「なんだ……これ……」


 それは無数の木の根だった。

 巨大で禍々しいほどにねじくれた木の根が、まるで巨大な蛇のように、複雑に絡み合いながら壁を形成している。天井も、床も、全てがこのおぞましい木の根で覆い尽くされていた。俺たちは、まるで巨大な生物の体内にでもいるかのような、言いようのない圧迫感と嫌悪感に包まれた。


「ガイっち……一体、何があったの? あたしたち、どうしてこんな所に……」


 テレサが震える声で尋ねる。

 俺はゆっくりと立ち上がると、二人に向き直り、先ほど起きた出来事を、ありのままに話した。妖精たちの裏切り、そして、俺たちが「養分」として、この奈落に突き落とされたことを。


「そん……な……」

「妖精さんたちが……私たちを……?」


 俺の話を聞き終えた二人は、言葉を失い、顔を青ざめさせた。特に、純粋に妖精たちを信じ、懐いていたサクラのショックは大きいようだった。その瞳からは、みるみるうちに涙が溢れ出し、ぽろぽろと頬を伝って落ちていく。


「嘘……だよね……? あんなに優しくて、可愛かったのに……。どうして……」

「……分からん。だが、俺たちが騙され利用されたことだけは事実だ」


 テレサはよほどショックだったのか、肩を落としていた。


「うう……せっかく仲良くなれたと思ったのにぃ……」


 泣きそうな表情になるテレサだったが、ふと、ある疑問に気づいたように、俺の顔をじっと見つめた。


「……でも、待って。なんでガイっちだけ眠らなかったの? あたしとサクっちは、全く抵抗できずに寝ちゃったのに」

「ああ、それなんだが……たぶんRESが高かったお陰だと思う」


 既に3桁に突入してるからな。明らかに過剰だ。


「RES……? たしか弱体耐性だよね……?」

「ああ。俺はデバフスキルばかり使ってきたからか、この数値だけが異常に高い。おそらく、エルダが料理に盛った睡眠効果も、一種のデバフとして判定されたんだろう。それで、俺だけがその効果に抵抗できたんだと思う。まさかこんな場面で役に立つとはな……」


 俺は自嘲気味に笑った。

 RES――デバフ耐性。それはデバフをかける側の俺にとっては、優先度の低いステータスだった。むしろ、他のステータスを圧迫するだけの、いわゆる「死にステータス」だとさえ思っていた。

 レベルが上がるたびに、この数値だけがぐんぐん伸びていくのを、残念な思いで眺めていたほどだ。

 だがその死にステが、この絶体絶命の状況で、俺の意識を繋ぎとめてくれた。

 何が幸いするか分からないものだ。


「そっか……ガイ君の戦い方が、ガイ君自身を助けたんだね……」


 サクラが涙を拭いながら、少しだけ誇らしそうに言った。

 俺たちは、しばしその場で呆然としていたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。


「とにかく、ここから脱出する方法を探そう。こんなジメジメした場所に長居するのはごめんだ」


 立ち上がると、テレサもサクラも、覚悟を決めたように顔を上げた。

 俺たちは改めて周囲を見渡す。四方も、上も、全てが巨大な木の根でできた壁に覆われている。登れそうな場所も見当たらない。まさに、袋の鼠だ。

 しかし一つだけ、道らしきものが存在していた。


「あっちだ」


 俺が指差した先。それは、無数の木の根がアーチ状に絡み合い、まるで自然にできたトンネルのようになっている場所だった。奥は暗くて何も見えないが、明らかに「進め」と言わんばかりに、一本道が続いている。

 他に行くあてのない俺たちに、選択の余地はなかった。


「行くぞ」

「うん!」

「なんか不気味ね……」


 サクラを先頭に、俺、テレサと続き、俺たちはその不気味な木の根のトンネルへと足を踏み入れた。

 中は想像以上に広く、そして長かった。壁や天井からは、時折、粘着質の液体が滴り落ち、不快な音を立てる。まるで、巨大な生物の食道でも歩いているかのような、言いようのない恐怖がじわじわと心を蝕んでいく。


 どれくらい歩いただろうか。

 長い長いトンネルの先に、ようやく出口の光が見えてきた。


「出口だ!」


 俺たちは最後の力を振り絞り、光に向かって駆け出した。

 トンネルを抜けた先は、先ほど落下した場所よりも、さらに巨大な空洞だった。そして、その中央に、それは鎮座していた。


「な……なに……あれ……」


 テレサが驚いた声で呟いた。

 そこにいたのは、樹のモンスターだった。

 だが俺たちが今まで見てきたような、ただのトレントではない。

 その巨体は、まるで焼け焦げたかのように黒く、幹には、苦悶に満ちた無数の顔のようなものが浮かび上がっている。

 枝は、獲物を捕らえるための鉤爪のように鋭く尖り、その全身からは、邪悪としか言いようのない、禍々しいオーラが立ち昇っていた。

 そして、その幹の中心部。まるで悪魔が嘲笑うかのような、裂けた口と、爛々と赤く輝く二つの目が、ゆっくりと、こちらを捉えた。


『……キ……タ……カ…………アタラシイ……イケニエ…………』


 ぞっとするような、複数の声が混じり合ったかのようなおぞましい声が、空洞全体に響き渡る。

 同時に、俺の目の前に、モンスターの情報ウィンドウが表示された。


 ―――――――――――――――――――――――

【デビルトレント】 Lv.??

 ―――――――――――――――――――――――


「デビルトレント……!?」


 聞いたことのない名前だ。だが、そのレベル表示が「??」になっていることから、こいつが規格外の強敵であることは、火を見るより明らかだった。


「こいつが……エルダが言っていた『とある方』。そして、俺たちが『捧げられる』はずだった相手か……!」


 全てを理解した。

 妖精たちはこのデビルトレントに、定期的に生贄を捧げることで、何か見返りを得ているのか、あるいは、ただ恐怖によって支配されているのか。いずれにせよ、俺たちはこの化け物の「餌」として、ここに突き落とされたのだ。


 デビルトレントはその悪魔のような表情を、さらに歪ませた。まるで、目の前の食事が楽しみで仕方がないとでも言うように。


「逃げ場は……ない、か」


 後ろは一本道のトンネル。前には、絶望的な強さを誇るであろう化け物。

 だが俺の心は、不思議と冷静だった。

 怒りも、絶望も、一周して、今はただ、闘志だけが燃え上がっていた。


「サクラ、テレサ。覚悟はいいか?」


 俺の問いに、二人は黙って、しかし力強く頷いた。


「ふざけた妖精どもにも、目の前の醜い化け物にも、一泡吹かせてやろうぜ。俺たちは、ただの餌じゃないってことをな」


 俺とテレサは戦闘態勢に入る。

 サクラは『黒曜の星屑』を抜き放ち、その黒い刀身が悪魔の赤い光を鈍く反射した。

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