ビッグホーン狩り
今いるルンベルクという町には四つの出入口がある。町の出入口は東西南北の四つだ。
それぞれ難易度が違うみたいだ。
東西はそこまで強い敵は出ないらしく、北南はある程度慣れたプレイヤー向けとのこと。
なぜこんなことを知っているかというと、北の門から出ようとした時に、NPCの門番が引き留めてきたからだ。そしてその門番から色々と話してくれたのだ。
どうやら推奨レベルより低いプレイヤーが通る時に、アドバイスするように設定されているらしい。
俺みたいな新規のプレイヤーにはありがたい仕様だ。
そんなこんなで北の門からフィールドに出発し、目的のモンスターが居る場所へと目指す。
ビッグホーンはある程度離れた森林地帯に生息しているらしい。なのでそこまで移動することにする。
道中にはちらほらモンスターを見かけたが、基本的に無視することにした。
今回は目当てのビッグホーンを集中に狩るつもりだ。
十分ほど歩いただろうか。
森林地帯に到着し、警戒しながら周囲のモンスターを探していく。
そのまま歩き続けると……
「あっ! あれじゃない?」
「ん? 見つけたか?」
「うん。たぶん向こうにいるモンスターだと思う」
サクラが指さす方向には、角のデカい鹿が居た。
あいつがビッグホーンか。
「つーか角デカすぎじゃね?」
「す、すごい大きさだね……」
2本の角は鹿の体格並みにデカく、本体よりも角の方が目立つ。
あんなにデカいと逆に邪魔だと思うんだけどな。
ま、ゲームにそんなツッコミを入れるのは野暮ってもんか。
「よし。んじゃ頼むぞ。サクラ」
「うん!」
ビッグホーンに近づいていく。すると向こうも俺たちに気が付いたようだ。
こっちを見るや否や、真っすぐ俺たちに向かって走ってきた。
「やっぱりアクティブモンスターか。サクラ構えろ!」
「あわわ……すごい速さで突進してくるよぉ」
このまま俺たちをはじき飛ばす気か。
どんどんと距離を縮めてくる。
ビッグホーンの狙いは……サクラか!
「サクラ! 避けろ!」
「きゃっ」
サクラが間一髪で突進を避け、勢いよく通り抜けていった。
だがビッグホーンはUターンをし、勢いが衰えることなく再び俺たち向かってきた。
「くそっ。早い! 闘牛みてーなやつだな!」
「ど、どうしよう……」
ああやって角を出して突進するのがやつのパターンか。
だったら……
ギリギリまで引き寄せて……
……今だ!
「《アースバインド》!!」
スキルを発動した瞬間、ビッグホーンはピタリと立ち止まった。
「す、すごーい! あんなスピードで動いてたのに止まっちゃった……」
「あぶねぇ。もう少し遅かったら引き殺されたな」
「で、でも。これで安心だよね?」
「まだだ。移動が出来なくなっただけだ。まだやつは生きてる」
ビッグホーンはその場から移動は出来なくなったが、威嚇するように頭を動かしている。
「あの状態でも攻撃はしてくる。だから注意しろ」
「わ、分かった。じゃ、じゃあ……私が戦うね!」
「頼んだぞ」
剣を構え、ビッグホーンに近づいていくサクラ。
距離を詰めるとジリジリと動き、真正面から攻撃していった。
「やあっ!!」
だが角で剣が弾かれてしまう。
「あう……」
「落ち着いて。相手はそれ以上動けないんだし。見極めて攻撃すればダメージを与えられるはずだ」
「も、もう一回!」
再び剣を振り下ろすが、やはり角で防がれてしまう。
つーかビッグホーンも器用だな。あんなバカデカい角を巧みに動かしてやがる。
「うー……どうしよう……」
さすが北にいるモンスターなだけだけある。
移動できないってのに、それでも簡単に倒させてくれない。
せめて遠距離攻撃できる手段があればな……
「……ガイ君」
「どうした?」
「このモンスターって、動けないんだよね?」
「そのはずだけど」
「……いいこと思いついた!」
そういって、ビッグホーンの背後に移動した。
「これなら角も使えないでしょー!」
「おー」
ああそっか。
角は前にしか対応できないんだから、後ろに回ればよかったのか。
「よーし! じゃあこれで――」
剣を振り下ろす瞬間、ビッグホーンはくるりと方向転換をし、サクラが居る方向に正面を向いた。
そして再び角で剣を防いでしまった。
「きゃんっ」
「んなっ!? そんなのありかよ!?」
おいおい。どうなってるんだ。
移動を封じても方向転換は出来るんかい。
つーかこれバグなんじゃないか?
「うう……いい考えだと思ったのにぃ……」
「アイディアは良かったと思うぞ。けどこれは予想外だったな……」
「むー……。でも負けないもん!」
おお。やる気十分だな。
これぐらいじゃあへこたれないか。
いや待てよ。
サクラにヘイトが向かっている今ならチャンスじゃないのか?
その隙に、俺が背後から攻撃すればいい。
まぁ俺は攻撃力が最低クラスだから、大したダメージは出ないとは思うけど。それでもやらないよりマシなはず。
「サクラ。そのまま気を引いててくれ」
「え? あ、うん」
武器をオールドロッドからナイフに変え、ビッグホーンの背後に移動する。
そして近づき、ケツに切りかかる。
「くらえっ」
が……
「ぐはっ!?」
「!? ガイ君!?」
ビッグホーンの後ろ足で蹴飛ばされてしまった。
「いってぇ……」
「だ、大丈夫!?」
「今のでHP半分近く減ったぞ……」
「あ、後は私がやるから! ガイ君は離れてて!」
「す、すまん!」
慣れないことはするもんじゃないな。
やっぱりデバッファーとしての仕事に徹しよう。
「よーし。じゃあいくよー!」
サクラは剣を握り、ビッグホーンに切りかかった。
が、その度に剣が角で弾かれてしまう。
サクラも負けじと剣を動かす。
「このっ……えいっ!」
どうやら手数で勝負する気らしい。
素早く何度も切りつけ、色々なやり方で攻め続けている。
おっと。
そろそろ《アースバインド》の効果が切れるからかけなおさないとな。
あっ。そうだ。
「《ブラインド》!!。これはどうだ」
これでビッグホーンは暗闇状態になり、視界を大幅に制限される。
サクラもかなり戦いやすくなったはず。
どうだ?
「この……このぉ!」
……あれ。
あんまり変わんないな。
特に変わった様子もなく、サクラの攻撃を受け続けている。
接近されてると効果が薄いのかな。
そう思っていると――
「やぁ!」
ビッグホーンは動作が遅れ防ぎきれなかったため、サクラの攻撃をまともに受けてしまう。
初めてダメージが入った。
「! や、やった!」
「おお。やるじゃないか」
よかった。ちゃんと効果があったんだ。
「よぉーし。がんばるよー!」
サクラはその後も攻撃を続け、徐々にダメージが入るようになってきた。
どうやら相手の動きが読めてきたみたいだな。
「ここっ!」
そして何度目かの攻撃が通ると……
「えいっ!…………あっ!」
「お?」
ビッグホーンはその場で倒れ、光の粒子となって消えていった。
残されたのはドロップ品のみ。
「や、やったぁ! 私でも勝てたよぉー!」
「おー。すげぇじゃん。いけるもんだな」
「えへへー」
しかし意外に苦戦したな。
もう少し楽にいけると思ってたんだけどな。
「マジで助かったよ。あんなモンスターは俺一人だと絶対倒せないし」
「わ、私こそ助かってるよー! あんなの私一人じゃ絶対無理だし」
「そ、そうか?」
「うん。ガイ君が居てくれたからこそ、倒せたんだよ。だからね。本当にありがとうね」
「お、おう」
なんというか、こう……面と向かって言われると気恥ずかしいな。
「にしても……もやけに強かったよな。どう考えても適正レベル10じゃないだろうに」
思わず話題をそらしてしまう。
「そ、そうなの? 私はまだレベル低いからよく分かんないや」
「少なくともソロで戦うようなモンスターじゃない」
恐らくパーティを前提に倒すことを想定しているんだと思う。
最初に盾役が攻撃を引きつけて、他のメンバーがダメージを与えて倒す……というのが本当のやり方なんだろうな。
けどあの猛突進を受けきれる程の実力が必要になる。移動はできなくても、攻撃を食らえば半分近く減らされるからな。
つまり、突進中はその何倍のもダメージがあると考えられる。
それをレベル10でなんとかなるとは思えない。
「とりあえずやっと角一個目か。これをあと四つ集めないとな」
「そうだねー。さっきのでちょっと自信ついてきたかも」
「へぇ。結構やる気なんだね」
「今はガイ君がいるもん。だから次もきっと上手くいくはずだよ」
「俺もフォローはするけど無理はするなよ」
そんな会話しつつ、次の獲物を探しに歩きだした。




