サクラのトラウマ
歩き始め、モンスターを探していた時だった。前方に別プレイヤーの姿が見えたのだ。
あの人もこの辺りで狩りをしている人なんだろう。邪魔するのも悪いなと思い、なるべく近づかないように移動をすることに。
だが――
「……ん? おい。そこのお前」
「え?」
突然、見たことない男が話しかけてきたのだ。
そのプレイヤーは俺らの姿を見ると、なぜか声をかけてきた。
「なんだ? 俺になんか用か?」
「ちげーよ。野郎に用はねーよ。そっちの女のほうだよ」
「サクラに?」
「………………ッ!」
なんだ?
サクラの様子がおかしい。
まるで何かに脅えているような……
「おーやっぱそうだ。さっきの使えねぇバカ女じゃねーか!」
「…………」
遠くにいた男はこっちに近づくと、サクラを見下したような顔で笑った。
「ハハハッ! お前まーだ引退してなかったのかよ。時間の無駄だからさっさと辞めればいいのによ」
「…………」
「おいおい。ダンマリかァ? せっかく親切にアドバイスしてやったのによォ!」
「…………」
なんだなんだ。
一体何があったんだ?
「ってか隣の奴は誰よ? まさか新しい寄生先か?」
「ち、違うっ! ガイ君はそんなんじゃないよ!」
「じゃあ誰なんだよ。お前みたいな役立たずと一緒になってくれる奴なんて存在しねーだろ」
「ガイ君は……その……わ、私のパーティだもん!」
「……は? パーディ組んでんの? お前みたいな奴と?」
「そうだもん!」
「…………ハハハ。アッハッハッハッハッハッハ! 冗談だろ? お前とパーティ組むアホが存在するのかよ! ありえねー!」
なんなんだこいつは。
さっきから失礼な野郎だな。
男は大げさに笑ったあと、俺の方に指をさしてきた。
「おいお前!」
「ん? 俺か?」
「こんな使えねぇバカ女とパーティ組んでるってマジかよ?」
「バカ女とは誰のことだ? そんな名前のプレイヤーは知らんぞ」
「なーに言ってんだ。このサクラって奴のことに決まってるじゃん!」
あえてとぼけたってのに、サクラを指さしてバカ女呼ばわりしやがった。
こいつは一体何者なんだ。
いい加減、目障りになってきた。
「つーかさ。お前誰よ? サクラの知り合いか?」
「あれ? オレのこと聞いてないの? おいおい。ずっと騙してたってわけかよ」
「だから誰だって聞いてるんだけど。さっきから何なんだお前は」
「まーいいか。オレはレンジってんだ。βからやってるからそれなりやり込んでるぜ?」
そういって、ドヤ顔でポーズをとった。
地味にウザい。
「んでレンジとやら。サクラに何の用だよ。俺たちは狩りで忙しいから、お前と世間話してる暇はないんだが」
「おいおい。マジでバカ女と狩りしてんの? こんなド下手糞な奴と一緒だとストレス溜まるだろ?」
「……お前には関係ないだろ」
「ああそっか。囲い込みってやつか。バカ女は下手糞だけど、見た目だけはいいからな。惚れるのも無理ないわな」
本当にウザくなってきた。
サクラとはどういう関係なのかは知らんけど、これ以上こいつと一緒に居たくない。
「悪いことは言わねぇ。バカ女とは縁を切ったほうがいいぜ。美人なら他にもいくらでもいるしな」
「俺の勝手だろ。お前に指図される筋合いはない」
「つーかよ。そんな下手糞な奴と一緒に居て楽しいのか? さっさと見限って、このゲームを楽しんだほうがいいだろ?」
「初心者なんだから下手なのは当然だろ。それがどうした?」
「いやいや。バカ女の下手っぷりは度を越えてるだろ」
まぁ確かに。
攻撃中に目をつぶるとか致命的すぎるしな。
けどその欠点はもう克服したんだ。
「仮に下手で何が悪い? サクラはサクラなりに頑張ってるんだ。ゲームの楽しみ方は人それぞれだろ。お前が決めることじゃない」
「いーや。悪いね。こんなにも下手な奴はさっさと引退するべきだ」
「アホか。何でお前がそんなこと決めつけるんだよ。理由は何なんだよ?」
「理由? そんなの簡単だよ。ゲームの質が落ちるからに決まってんじゃん!」
……は?
ゲームの質が落ちる?
意味不明すぎる。
「ど、どういう意味だよ」
「下手糞が多いとこのゲーム――GoFの評判が下がる危険がある。だからさっさと排除したほうが今後の為になるんだよ」
……???????
駄目だ。全然理解できん。
日本語で話しているはずなのに脳が理解することを拒否している。
「そ、そんなことしなくてもお前に影響はないだろ? 」
「バカか。評判が落ちるとオレまで同類認定されちまうだろーが!」
同類認定???
さっきから何言ってるんだ?
誰か通訳呼んできてくれ。
俺はもう限界だ。
「いいか? バカ女みたいな下手糞が多いと、ゲームそのものが下手糞がやるものだと誤解されちまう。そうなったらオレにとっても迷惑だろうが」
「お前には関係ないだろ」
「だからさっきから言ってんじゃん。オレはそういう下手糞な連中と同類だと思われたくねーんだよ」
…………
ああ。なんとなく分かってきた。
つまりゲームの質ってのはPSのことを指していたのか。
んで下手な人=PSが低い人達ってわけか。
このレンジって奴は、そういうPSが低い人達と一緒にされるのが不満ってことを言いたいわけか。
理解したくなかったけど理解してしまった……
「そ、それは仕方ないだろ。新規が増えれば不慣れな人も増えるのは避けられないんだし」
「ある程度ならオレだって我慢できるさ。だがな。そこのサクラって奴は下手糞ってレベルを超えてんだよ。あんなにも使えない奴は初めて見たぜ」
「つーかさ。サクラと何があったんだよ。お前みたいな奴とは接点が無さそうに見えるんだが?」
薄々感づいてはいるが、あえて聞く。
「あん? 別にどうってこともねーよ。新規の奴をギルドに誘おうとしただけさ」
「ギルド……このゲームにもそういうシステムがあるのか」
「当たり前だろ。オレのギルドはそれなり規模がデカいぜ? お前も入ってみるか?」
「結構だ」
こんな奴が居るギルドなんかに入りたくないっての。
「まーそれでよ。なかなかの美人が居たから声を掛けてみたわけよ。町中をウロウロしてたから簡単に接近できたぜ」
「その美人ってのがサクラだったってわけか」
「そういうこと」
なんとなーくその場面が想像つく。
VRMMO初心者のサクラにとっては何をするのか分からず、町中を歩きまわって迷子になってたんだろうな。
「そんでオレが色々教えて鍛えてやって、その後にギルドに勧誘しようと考えてたんだ。けどあまりの下手っぷりにイラつくだけだったよ。だからもう見限ることにしたんだ」
「なるほどな……」
そういうことがあったのか。
さっきサクラにパーティに誘うとした時に、様子がおかしかったのかこいつのせいだったのか。
ゲーム始めて最初にパーティを組んだのがこんな自己中な野郎とはな。
そらトラウマにもなるわな。
「分かったか? 今後のGoFの為にも、ド下手な連中は駆逐したがほうがいいんだよ」
「…………」
サクラは明らかに落ち込んでいる。
俺にしてみれば何とも思わないバカバカしい話だが、サクラにとってはそうは思っていないらしいな。
馬鹿正直にこんな奴の話を真に受けているみたいだ。
これ以上一緒にいると俺まで頭おかしくなりそうだ。
さっさと離れよう。
「サクラ。行くぞ」
「……え?」
「もう話は終わったみたいだし、俺らもさっさと狩りを再開しようぜ」
「お、おい! 待てよ!」
……しつこいなこいつも。
「何だ? もう用は済んだだろ? 邪魔すんなよ」
「オレの話聞いてたか? なんでバカ女と一緒になろうとするんだよ!?」
「知るか。俺の勝手だろ。お前がどう思おうが俺には関係ないっての」
「……だったら。力づくでも引退させてやる」
「は?」
レンジは剣を抜き、俺たちに向けて構えた。
「今ここで、オレが辞めさせてやる。二度とログインできねーようにボコボコにしてやる!」
「ふ、ふざけんな! 俺らをPKするってのか?」
「ああそうだ! お前らが弱い方が悪いんだ。GoFの質を下げる雑魚共はオレが退治してやるんだよ!」
おいおいおい。マジかよ。
こんな所でPKされるとかカンベンしてくれよ。
神にでもなったつもりかよこいつは。
「や、やめて! ガイ君は悪くないの! やるなら私だけにして!」
「安心しろよ。二人まとめてぶっ殺してやるからよ!」
「な、なんでそんな酷いことするの……」
「決まってら! お前らが弱いのが悪いんだよ! この世は弱肉強食なんだからなぁ!」
…………
さすがに我慢の限界だ。
マジで頭にきた。
「おい。レンジ」
「んだよ。今さら命乞いしても無駄だぜ?」
「俺とタイマンで勝負しろよ。どうだ?」
「あん? お前とタイマンだと? なんだそりゃ」
「俺が相手してやるから。それでいいだろ? いい加減サクラを巻き込むんじゃねーよ」
「嫌だね。なんでお前の提案を聞かなきゃならねーんだよ」
本当に面倒くさいな。
「ふーん。怖いのか。俺に負けるのがそんなに嫌なんだ? ふーん。あれだけ人を下手糞呼ばわりするくせに。実は自分が下手糞だったってオチか?」
「なっ……」
「そっかー。なら仕方ないかー。勝てない相手とは戦いたくないだろうしなー。だから避けるのも仕方ないかー。仕方ない仕方ない」
「……ッ! 言うじゃねーか……雑魚の分際でよォ……!」
顔赤くしてやがる。
予想以上に効いてる様子。
「ああいいぜ。その安い挑発に乗ってやるよ! お前とタイマンで勝負してやんよ……!」
さて……ここからだな……




