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自分で着替えられそうな服に着替えると、葵衣を連れて部屋を出る。
記憶にある通りに階段を降り、食堂へ向かおうとすると、メイド達のお喋りが聞こえた。
「お嬢様また熱出したって?」
「またアレでしょ?構って欲しい病」
「ホント手がかかるったら⋯⋯」
食事くらいしか運ばないクセに、手がかかるもないだろう。
大体病人の部屋に水一つないのだから、手抜き具合が伺える。
「あら、そんなに手をかけてもらった覚えなんてないわ」
突然聞こえた声に三人のメイドはハッとして視線を下にする。
「面倒ならもう来なくていいわよ?そんな怠惰な人なんて要らないから」
幼いながらも凛とした声と表情に、三人は狼狽えた。
本来の杏奈はハッキリ物言うタイプだ。
理不尽な物事は大嫌いだし、おかしいと感じたら上の人間にだって物申す。
言うだけ言って三人の横を通り抜け、食堂の更に奥の厨房へと入る。
「ポールさんいる?」
中に入ってある人物を探すと、他の料理人達が慌てて立ち上がった。
「お嬢様!」
「あぁ、いいの座ってて。ポールさんに厨房を借りたいだけだから」
「料理長に?」
「そう、お腹空いたのにメイドが食事さえ持って来ないから、もう自分で作ろうかと思って⋯⋯あら、ポールさん」
「お嬢様、こんなとこに来られちゃ困りますよ」
料理長の証であるタイを身に着けたポールは、困ったように眉を下げた。
「こんな時間にもなったのに食事がないから、お腹が空いてしまったのよ」
チクリと嫌味を混ぜて状況説明をする。
「お嬢様は今日のお食事は要らないとメイドが⋯⋯」
「言った覚えもなければ、そんなこと聞かれてもないわね」
「あいつら⋯⋯」
「もういいから、場所を貸してくれない?自分で作るから」
「え?お嬢様がご自分で?」
驚く料理長を押しのけて、保冷庫を開けて材料を取り出す。
先ずは玉子に牛乳にバター。
それを台の上に置き、踏み台を用意してからボウルやら泡立て器を準備する。
ボウルに玉子を割り入れ、砂糖と牛乳を入れて液を作る。
「硬くなったパンはあるかしら?」
驚いて固まったままの料理人が、無言でパンを差し出してくる。
こちらでいうパンはバケットのようなパンで、正直5歳児には硬い。
「ありがとう」
ニコリと笑ってから、パンを厚めに切って、玉子液に入れていく。
フライパンにバターを落とし、火を入れる。
バターが半分ほど溶けたところに、玉子液に浸していたパンを並べる。
これを両面焼けば簡単フレンチトーストの出来上がりだ。
するすると林檎やオレンジの皮を剥き、トーストの脇に添えたら完成。




