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アンナはソファーの上に置いた葵衣人形を手に取った。
「この人形の服も私が作ったものよ」
「えっ!?」
人形の服をまじまじと見て、麦藁色の髪の子と灰褐色の髪の子が「凄い⋯⋯」と、思わず洩らした。
「ここにあるマスコットも手作りよ」
「えっ?凄い!」
「何これ可愛い!」
この世界にはまだないマスコットは、若い娘達の関心を引いたようだ。
「ますこ⋯⋯?」
「マスコット。動物や人を可愛らしくアレンジした人形⋯⋯って感じかしら?」
確か定義は違うけれど、多分この世界ではきっと通じない。
「可愛いですこれ!絶対売れますよ!」
「もう少ししたら、町の小物屋でも売り出す予定らしいわよ」
「うわ、絶対買っちゃう!」
「わたしもー!」
きゃっきゃとはしゃぐ若い娘は大変可愛いらしい。
「今は自分のドレスを作っているのだけど、それの手伝いもして欲しいのよ」
「え!?ドレスまで?」
「まだ途中だけどね」
アンナはトルソーに着せている青いドレスを見せた。
「うわ⋯⋯ホントにドレスだ」
「子供用だから可愛らしいですね」
「あれ?このドレス人形のと似てる?」
なかなかいい着眼点!
「ふふっ、それはね人形とお揃いのドレスなの」
「そういうのも素敵ですね」
ドレスを検分してる少女は、不思議そうに首を傾げた。
「えと⋯⋯お嬢様。このドレス普通のドレスとちょっと違いますよね?」
「あら、分かる?それは私一人でも脱ぎ着可能なドレスなのよ」
「えぇっ!!」
改めてドレスを見ると、普通は後にある飾り紐やボタンが前にあったり、スカートの膨らみがパニエの重なりで出来ていたり、かなりの工夫がされている。
「これかなり凄いです⋯⋯」
「ふふ⋯⋯ありがとう」
頑張ってるだけに、褒められたらやっぱり嬉しい。
「お嬢さんホント五歳ですか?」
あら、失礼しちゃう。これでもちゃんと異世界年齢五歳よ〜。
「小麦粉て山を作るの」
あのあと昼食を挟んで、厨房でわいわいグラタン作りをしている。
グラタンといったら先ずはマカロニから!
「天辺に窪みをつけて、そこに玉子を落して〜」
皆で楽しくパスタ作り中です。
家の料理人は作れるようになったけど、侍女見習い達は初めてだものね。
パスタ捏ねてる間にホワイトソースを作り、グラタンの具を用意しましょう。
今回はポテトグラタンだから、ジャガイモは重要!
いや〜グラタンって凄いよね。
小麦粉で作ったパスタに、小麦粉で作ったソースかけて、小麦粉で作ったパン粉かけて、小麦粉で作ったパンで食べる。
今回はジャガイモ入りだから、もう炭水化物祭だよね!
そこにチーズたっぷり乗せちゃたりするんだもん!
大好物だしめっちゃ美味しいけど、カロリーの爆弾だよね!
まぁ、罪悪感はまだ幼児だから気にしない!
前世だったら、たまのプチご褒美だったわ〜。
端の焦げた部分がやたら美味しいのよね。
いつもより女子が多い厨房で、デザートの準備までしてしまった。
キャッキャしながら何かするのって、やっぱり楽しいね!
料理人の何人かがそんな女子に鼻の下伸ばしてたけど、手ぇ出したらぶっ飛ばすぞコラ⋯⋯。
なんて思いながら、アンナはニコニコと料理指導をするのであった。




