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推し似に迫られて困ってます!〜私、推しは遠くから見ていたい派なので!〜  作者: 媛乃 暁姫


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「どういう事でしょうか?」

「ほら、平民は貴族を怒らせたら恐ろしいって概念はあるじゃない?」

「まぁ、そうですね」

 彼女らは顔を見合わせては小さく頷く。

「だから、まず打つことはないでしょ?」

「それ以前に、小さい子供を打つなんて普通しませんよ」

「身分がどうのではなく、人としての問題ですよそれ⋯⋯」

 彼女達の言葉にアンナは小さく笑う。

 普通はこの反応なのだ。

 平民でさえこれなのに、この家ではその当たり前がなかった。

 アンナローズの記憶では、定期的に怒鳴られ、打たれていた。

 まだ言葉も覚束ない幼子(しかも主家の子供)をだ。

 頭がおかしいとしか思えない。

 しかもアンナローズは杏奈が目覚めるまで、ロクに喋れもしなかったのだ。

 五歳で単語程度しか話せないとか、普通にネグレクトを疑う。

「まぁ、そのせいか、私にはお世話してくれる者がいなかったのよ」

 だから今回の人材募集なのだ。と、アンナは言った。

「普通は上級貴族の使用人って、下級貴族とかがなって上級使用人になるんだけど、あの元侍女長のせいでなかなか人材もいなくてね」

「⋯⋯そんなに酷かったんですね、あの人」

「そうね。今回駆逐出来て清々してるわ」

 呆れたように肩を竦めたアンナは、彼女らを促して使用人棟を出る。

「先ずは入り口から案内するわね」

 使用人の出入り口は使用人棟から近い。

 そこは洗濯場や調理場があり、ランドリーメイドやキッチンメイドなどがいる。

「能力や適性によって振り分けるけど、希望があれば言ってちょうだい」

 使用人用の出入り口から中へと入り、洗濯場や調理場を案内して行く。

「料理長はまともだから」

 調理場で料理長を見かけたので、ついでに挨拶と、彼女達の紹介をすると、ポールは戯けるようにアンナに問うた。

「お嬢様、本日の晩餐のご要望はございますか?」

 ニッコリ笑うポールに、アンナはパッと顔を上げた。

「ポテトグラタンが食べたいわ!」

「それもまた初めて聞く料理ですね⋯⋯」

 顎を擦りながらポールは思案する。

「お昼が終わったら、作り方を教えに来るわ。もちろん皆んなで」

 グラタンなら、パスタから作らなければならない。ならば、人手は多い方がいいだろう。

 用意する材料を伝えて、一行は調理場を後にする。

「お嬢さんは料理までするのかい?」

 驚いたように聞いてきたのは、少し色黒で赤茶の髪の子だ。

 陽に焼けた肌が健康的で、快活さが伺える。

「うーん、料理は少し齧った程度かしら⋯⋯因みに趣味は裁縫!」

「刺繍ではなくて、裁縫ですか?」

 栗色の髪の子が目を見開いて驚いている。

「刺繍よりも服とかを作る方が好きなの。あ、そうだ!」

 一階を大体見回ったので、アンナは自室へと向かう。

「まだまだ途中だけれど、私の部屋は趣味の集大成よ!」

 色々な青で統一された部屋は、アンナ自慢の推し活部屋だ。

 青い布とミシンを手に入れてから、カーテンやベッドカバー、クッションなども作った。

 それに合わせて家具は白で統一している。

「⋯⋯青い」

「私の推しカラーが青なの!」

「推し?」

「すっごく好きってことかな?」

「成る程⋯⋯」

「うわ〜!縫い機がある!」

 はしゃいだ声を上げたのは、麦藁色の髪の子だ。

「あなた達を選んだのは、裁縫や刺繍が得意って書いてあったからなの」


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