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言いながら、目に突き立てた指を近付ける。
「主人のいない隙に自由にしてたみたいだけど、あなた色々な罪に問われるから」
「あ⋯⋯ぁ⋯⋯」
「横領も酷いけど、一番は私に暴力を振るったこと」
子供らしく笑いながら罪を暴くアンナに、侍女長は戦慄した。
「知ってる?下級貴族の使用人が、上級貴族の子供に暴力を振るっていたら、鞭打ちの百回の上に放逐されるのですって」
「ひぃ⋯⋯ひっ⋯⋯」
「貴族法を分かっててやっていたなら、ただのマゾじゃないあなた」
ーーだって、あなたにはご褒美なんでしょ?
耳元で囁くと、侍女長は声にならない悲鳴を上げて気絶した。
それを冷たい目で見てから一度瞬きすると、侍女長の取り巻きを一瞥した。
「邪魔だからこれの実家にでも捨ててきて。あぁ、あなた達も戻って来なくていいから」
青を通り越して真っ白になっていた取り巻き達は、慌てて元侍女長を起こそうとした。
しかし、女の二人ではふくよかな侍女長を起こすことが出来なくて、面白いくらいにワタワタしている。
「他に男手を連れて来て、それを捨てて来るように」
付いていた侍女と護衛に命じ、アンナはアドニアスに向き直る。
アドニアスの後ろでは驚愕に固まっている練習生達がいる。
まるで化け物を見るかのような目で、アンナを見ていた。
「分かる?馬鹿をやるとこうなるのよ。今からでも、上級貴族に仕えるってことをちゃんと自覚してね」
ただでさえ練習生達は平民なのだ。平民を軽く見ている貴族は多い。
青ざめた顔で頷く彼女達に、アンナは子供らしく微笑んだ。
「私はちゃんと仕事さえしてくれれば、基本的に煩いことは言わないわ」
そう言うと、再びアドニアスを引き連れて使用人棟の中を闊歩し始めた。
「この使用人棟は基本的に四人一部屋なのだけど、どうする?」
上級使用人となれば、二人部屋か一人部屋を与えられるが、平民の使用人となると四人部屋しかない。
「四人部屋でも充分広いです」
一番年上の娘が、感激したように部屋を見回した。
「一応ベッド周りにカーテンがあって、周りの視界を遮れるようになっているから」
いうなれば、病院の大部屋の雰囲気である。
「ここから右に向かって三部屋が、あなた達の部屋になるから。まぁ、部屋割りは後でもいいわ。取り敢えず荷物を置いてちょうだい」
各々が適当に荷物を置くと、アンナは彼女達にこれからの事を説明する。
「さっきの元侍女長を見て、辞めたくなったのなら言ってちょうだい。大丈夫、咎めはしないわ」
「あの⋯⋯お嬢様」
「なあに?」
「あの人に暴力を振るわれていたって、ホントですか?」
「本当よ」
驚く彼女達にアンナは苦く笑う。
「まぁ、隠しても仕方ないんだけど⋯⋯」
と、前置いてアンナはこの辺境伯家の内情を軽く教える。
主人二人が不在であるをいい事に、あの元侍女長が好き放題していて、アンナの世話は殆んどされていなかった事。
アンナの記憶では、最初に打たれたのは三才くらいであった事。
確か理由は、泣いていたのが煩かっただったか⋯⋯。
「えー、三才が泣くとか当たり前じゃないですか」
「そうね。だから私は貴族ではなく、平民に向けて募集をしたのよ」




