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アンナの判断で、サクサクと面接に来た人員を削っていく。
一番のネックは年齢である。
流石に祖母くらいの年齢の方はご遠慮願う。貴族の使用人となると、結構力仕事だったりするし、新しいことをすぐに覚えるかどうかも怪しい。
記憶力の問題ではなく、身に付いた習慣はなかなか抜けないからだ。
何十年も積み重ねたものを、根底からひっくり返し、新たに覚え直すのは骨が折れる。
ならば柔軟に対応出来そうな者を選ぶのは道理だろう。
なにせ、貴族とは挨拶からして違うのだ。
年齢上限は二十歳までと決め、他に注目すべきは趣味と特技だ。
やはりアンナの侍女となるには、裁縫や刺繍、調理の腕が欲しい。
侍女はお茶を美味しく淹れられるのも大事だし、前世のレシピなんかも共有したい。
他にも一緒に人形の衣装やアンナの服が作れたなら、それはもう僥倖である。
まぁ、世の中そんな上手く行く筈はないのだが、希望くらい持ちたいものだ。
それはもう侍女ではなく、アンナのアシスタントだという声が内から聞こえるが、さらりと無視を決めこむ。
齢五歳。前世合わせて三十年近く。
色々と悟るものである。
取り敢えず、裁縫と刺繍と料理が得意な若い娘を
十人ほど選び、最終面接と職業体験をすることを告げる。
「体験ですか?」
口を開いたのは一番年が上の娘だ。
「そう、礼儀や作法などもこの時に学ぶの。いうなれば練習生ね」
困惑しきりな彼女達には、現実を教えなければならない。
「貴族の侍女となるなら、立ち方、歩き方、頭の下げ方、話し方まで細部に渡って出来なくてはならないの。先ずはそれを学ばなければ、仕事を与えることも出来ないわ」
「あ、あたし知ってるー!こう、スカート摘んでお辞儀するんですよね?」
アンナより十歳ほど年上の少女が、無邪気にスカートを摘んで笑う。
アンナはそれをバッサリ斬った。
「違うわよそれ」
「え?」
「先ずスカートは摘まないし、足を引くことが大事。片足を引いて、膝を曲げ、背筋は伸ばして体を低くして、指先を伸ばして、右手を下にして重ねるのよ」
説明しながら、アンナは見事なカーテシーをする。
「ドレスの裾が汚れないように、軽く持ち上げるのだけど、裾が短ければ持ち上げる必要はないわ」
幼子がする上品で優雅な挨拶に、女性陣は感嘆の息を吐いた。
「因みに、カーテシーには簡易版と正式版があります。頑張って覚えて下さいね」
ニッコリ笑って宣言すると、途端に彼女らは顔色を悪くした。
貴族とは、規律やしがらみにガチガチに固められている。
一つの失敗が命取りになるのだ。
「あ、一応練習生の間もお給料は出るようにしますけど、出来なければ即クビになると覚えておいて下さい」
要するにお金を貰って、貴族の礼儀や習慣、作法などを教わることになる。
この機会にどうやって学ぶかは、彼女達次第なのだ。
「お金を払って行儀作法を教えてあげるのだから、死ぬ気で頑張ってちょうだいね。私、無駄な投資はしたくないの」
そう言って微笑んだ幼子に、娘達はゴクリと唾を飲み込んだ。




