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アンナが先ずしたのは、履歴書の原型を作ることだった。定型文を先に作っておけば、面接の時に楽になる。
それを人材募集に応募した人へ渡すことによって、文字の読み書きが出来るかも判る。
合理的なシステムに驚いたのはアドニアスだ。
「確かに、沢山の方と面談する時には楽ですね」
前世では普通というか、当たり前にあることなのだが、やはりこの世界ではないようだ。
この世界での就職は、紹介状を貰うか商業ギルドに頼るのが一般的だ。
商業ギルドに依頼して人材を募集し、ギルドで面談を行い、ギルドがどこに行かせるか振り分ける。要するに全てギルド任せ。
アンナは商業ギルドに人材募集だけをしてもらい、他は全て自分がやると決めた。
他には権力やツテがある者から紹介状を書いてもらい、それを雇う側へと渡す場合もある。
この方法は貴族や大店が使うことが多い。この時に、多少の金銭のやり取りが発生するのだ。
前世で言うなら、内申書を金で買う感じである。
それを大いに利用していたのが件の侍女長。多大に私腹を肥やしまくっていた模様。
「身分は問わないと間口を広くはしたけれど、平民にとって貴族の屋敷への就職なんて敷居が高いでしょうね」
雇われる側は、貴族家で働いた実績を足がかりにするのも一つの手でもある。
真面目に働けば、更に上位の貴族家への繋がりになる時もある。
雇い入れた者がどうなるのかは、アンナの手腕にかかっているのだ。
そんな重い事情なんて関係なく、アンナが望んでいるのは絶対的な味方だ。
気軽に会話が出来、アンナのために動いてくれる友人のような存在。
これから人となりを見極め、育てなければならない人材。
ーー集まるかしら?
「まぁ、紹介状や付け届けは不要としてるから、結構な応募があると期待しましょ」
面接の日、アンナは商業ギルドにやって来た。
今日はここを借りて面接を行うのだ。
ギルド長が胡散臭い笑顔で、揉み手しながらアンナを迎える。
「大分集まっておりますよ、フランメイル様」
「そう。それじゃ、準備が出来たら始めましょうかね」
ギルドの会議室を借りて、前世の面接を思い出しながらセッティングをする。
デスクと椅子をそれっぽく並べていると、付いて来ていた護衛が面接の人数を教えてくれた。
「50人程集まっているらしいのですが、如何なさいますか?」
意外と多いのには驚いた。
「複数との面接に切り替えるわ。5人づつ面談していくの」
いわゆる集団面接である。
番号を書いた紙を作り、それを面接に来た人へと渡す。
ここである程度ふるいにかけ、10人程残し、二次面接を辺境伯邸で行うのだ。
辺境伯邸で仕事の内容を軽く教わり、最終的に1人か2人残れば御の字である。
一度の募集で、良い人材に巡り合えればいいけれど⋯⋯。
前世の人材募集のように、辞退や退職などを想定するならば、もっと沢山の人材が欲しいところではある。
最も上級貴族だと、辞める侍従や侍女は少ないのに。
「人材不足なんて、ウチくらいじゃないかしらね⋯⋯」
アンナの重いため息は、簡素な部屋の中で霧散した。




