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「⋯⋯人材ですか?」
アドニアスはアンナの話に眉を寄せた。
「だって、使える人いないじゃない」
どうせ解雇した使用人は、あの侍女長辺りが採用したのだろう。
下級貴族の行儀見習いの採用となると、融通を利かせるために、あちら側から多少の金銭を貰ってる可能性もある。
「私、何をするか分からない人に、お世話なんかされたくないもの」
至極真っ当に述べると、アドニアスは凍りついたように顔を引きつらせた。
普通の貴族令嬢は、産まれてすぐに乳母や専属侍女を付ける。
アンナローズにはそれがない。
この家の女主人がアンナローズを放置し、それに使用人達が追従したせいだ。
それが引き金となったのか、女主人は家に寄り付かなくなり、侍女長が幅を利かせるようになった。
結果、侍女長が女主人を気取り、子供達を冷遇し始めた。
次期当主のことは、何が何でも守らなければならない。そうすると、どうしてもアンナローズに目が届かなくなる。
そうなると、侍女たちのアンナローズへの扱いも杜撰になってくる。
解雇した侍女達の実態を聞いて、頭痛と胃痛が同時にきたものだ。
「取り敢えず私の専属を雇いたいのよ」
「⋯⋯分かりました。寄り子の下級貴族の子を当たってみましょう」
「別に貴族じゃなくてもいいわよ」
「は?」
「礼儀が出来ないなら教えればいいじゃない。歳が若いなら吸収も早いでしょ?」
「ーーしかし」
「出来ない貴族より、出来る平民の方が信頼できるわ」
吐き捨てるように言われた台詞に、アドニアスは目を見張った。
このどうしようもない家の惨状に、彼女なりに見切りを付けたのだろう。本来なら、家令の立場であるアドニアスがやらなければならない仕事なのだ。
侍女長を諌めることさえ諦めたアドニアスに、アンナからの信頼を得るのは難しい。
屋敷内の采配と、次期当主の世話でアンナローズのことはほぼ放置に近い状況だった。それが彼女にも分かったのだろう。
「どうせアレ代わりも探さないとでしょ?アレがいる限り、この家は沈む一方よ」
ーー確かに。
ここで当主が帰って来て、采配を振るってくれるのなら話は別だが。
幾度となく帰宅要請はしてるのだが、その度に蔑ろにされてる状況で、どうしたらいいのか困惑しながら、懸命にこの家を必死に守っている状態なのだ。
「とにかく人材を募集してみましょう。あ、今回はアレじゃなく、私が直接面談をするから」
「お嬢様が?」
「アレにいつまでもデカい顔させておけないし、信用も信頼もしてないから」
強烈な否定に、アドニアスは息を飲む。
ーーきっと、自分もそう思われている。
アンナローズを助けるどころか、ほぼ放置していたのだから、それは当たり前の感情だろう。
「使えるのならば、貴族でも平民でも孤児でも使う!人材はね育てるものなのよ!」
実際下級貴族の子よりも、商人の子の方が使い勝手がいいのも現実なのだ。
拳を振り上げ力説する女児に、アドニアスは頭を下げた。
「かしこまりました。お嬢様」
何かを変えてくれそうなアンナローズ。それが間違いではなかったと知るのは、もう少し先の話である。




