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「よしよし、いい感じかも!」
ようやく足踏みミシンにも慣れ、コツを掴んだアンナは、着々と推しグッズを量産していた。
推しの人形やぬいぐるみ、それに合わせた衣装諸々。
葵衣人形の服も結構作り、今は色違いのお揃いの服を作製中であった。
人形の小さめの服よりも、自分の服の方が作りが面倒な工程が多いのだ。
「調子に乗って、葵衣の服をレースだらけにしたのがいけなかったわね」
人形サイズと人間サイズは、当たり前だが勝手が違う。
レースやフリルなどは意外と手間がかかるのだ。
足踏みミシンにも慣れたので、ようやく自分の服を作れるようになった。
待望の自分一人で着られる服だ。
今持っている服を参考に、他人に着せてもらわなくても良いドレス。
子供用ドレスなので、豪華なワンピースのような仕様だが、ファスナーなどがない為、ボタンやリボンを模した紐で体に合わせる着方なのだ。
せめて前側にボタンや紐があればいいのだが、軒並み後にあるのだから、つくづく貴族女性とは他人の手を借りなければならない存在だ。
「人の手を借りるのも、贅沢の象徴なんだろうけどさぁ⋯⋯」
信用できる侍女がいないアンナにとって、着替えさえ苦痛なのだ。
何をするか分からない人に背中を向けるなど、どれだけ危険が伴うか。
「何だろうな〜この詰んでる感⋯⋯この家に産まれたのが不幸なのかな?」
生活には困らないし、趣味にも没頭出来る環境なのだが、周囲に頼れる大人はいない。
というか、周囲にいる大人がクズすぎる。
「貴族って、家の中でもこんな殺伐としてるもんなの?」
他の家のことなど分からないけれど、毎日薄氷の上を歩いているような生活なんて冗談じゃない。
自分で何とかしたいのはやまやまだが、如何せん幼児に出来ることなどたかが知れている。
「子供なんて泣き喚いて我儘言うか、愛想振り撒いて媚売るくらいしか出来ないじゃんか」
それをこの家の人にしたって、無視か放置されるのが目に見えている。
一応話だけでも聞いてくれるアドニアスと、食事のリクエストに応えてくれる、料理長のポールだけしか頼れない。
だったら、外部を頼るしかないのだが、子供の言うことを真に受ける人はいるのだろうか。
あの小物屋の夫婦のように、柔軟な考えをしてる人は珍しい。
よくもまぁ、こんな子供の話を聞いてくれたものだ。
威張り散らして言うことを聞かせる貴族もいるみたいだが、そんな阿呆にはなりたくない。
「せめて味方の一人くらい欲しい⋯⋯」
服作りや買い物、食事や運動。そして推し活。
それら全て、前世では葵衣と一緒に楽しんだものだ。
「旅行やテーマパークも一緒に行ったなぁ」
葵衣ほど気の合う人など望まないけれど、それでも普通に会話くらいしたい。
「⋯⋯人材ってどこで募集すればいいの?」
上級貴族の使用人となると、下級貴族の長子以下が行儀見習いとしてなったりする。それか教養のある平民。
「この世界にハロワなんてないだろうしな〜」
取り敢えず、分からないなら後ででも聞いてみよう。
キリのいい所まで終わらせようと、アンナは再びミシンに向き直った。




