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青い布が手に入ったので、早速ナオの衣装を作ろうとしたが、今は他の衣装を作っている真っ最中だった。
ナオの衣装は一旦諦めて、他の衣装の続きを作成する。
最推しの衣装作りが待っていると思うと、針の進みも自然と早くなる。
「それが終わったら、葵衣とお揃いの服も作らないと」
いや、お揃いの服の前に祭壇かな?
「本気でミシン欲しい⋯⋯」
手縫いだと色々と限界がある。特に自分の服を作るのにーー。
「アドニアスに聞いてみようかしら?」
自動ミシンはなくても、足踏みミシンならあるかも知れない。
足踏みは使ったことないけれど、要は慣れだ。それが使えれば、大分楽になる。
「練習用の布には事欠かないしね」
以前アドニアスに用意してもらった布が、大量に余っている。
アンナはテーブルの上に置いてあるベルを軽く振った。
チリン⋯⋯と涼やかな音が出るそれは、以前なら余り使われなかった物だ。
使うと解雇したあのふてぶてしい侍女が来たため、封印していたのだ。
ベルの音を聞いたのか、すぐにノックの音がした。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
ダラけきった侍女を粛清したせいか、最近他の侍女からも若干嫌がられているアンナ。その弊害か、アンナの所に来るのも戦々恐々としている。
「アドニアスを呼んでくれない?」
「かしこまりました」
ーー馬鹿なことしなきゃクビになんてしないわよ、失礼ね。
言いたいことは多々あれど、言われた通りに動くのなら問題ない。大体、家令がしっかりしないのが悪いのだ。
さり気なくアドニアスのせいにして、アンナは手元の作業に戻る。
暫くすると、ドアを叩く音で手を止めた。
「入ってちょうだい」
扉を開けて入って来たアドニアスは、入り口で大仰に頭を下げた。
「お呼びでしょうか?お嬢様」
「アドニアスに聞きたいことがあって」
「聞きたいことですか?」
「えぇ、うちにミシンはあって?」
「⋯⋯ミシンですか?」
戸惑いながら思案するアドニアスに、アンナはミシンという言葉がないのだと知る。
「布を自動で縫う機械よ」
「あぁ、縫い機ですね。一応ございます」
一応?と首を傾げるアンナに、アドニアスは苦く笑った。
「どなたもお使いにならないので、倉庫にしまってあるのです」
成る程。と、アンナは頷く。
家にいない女主人、仕事もしない侍女長が揃い踏みとなれば、使う者もいないだろう。
「それ、ここに置いて欲しいの」
「お嬢様のお部屋にですか?」
「えぇ、誰も使わないのなら、私が使うわ。未だ使えるようなら、調整して運んでちょうだい」
「かしこまりました」
少し前から、アンナが針仕事をしていることを知っているアドニアスは、納得したように頭を下げて出て行った。
一方アンナは脳内で『きゃっほい!』と狂喜乱舞していた。
ミシンがあれば、早く綺麗に仕上がるし、作れる物の幅が広がる。
あれもこれも作りたくて仕方ない!
文明の利器様々だ。
「早く届かないかな〜♪」
ウキウキしながら、ミシンが届くのを今か今かと待っていた。
ーーそんな時もありました。




