18
青い布を大量入荷したと連絡があったのは、葵衣の服も作り終え、推し人形に取り掛かってる時だった。
生地屋が直接出向いてくれるらしく、アンナはお茶をしながら部屋でそれを待っていた。
前世で作った祭壇は、百円ショップで買えるラックや段ボールを使ったが、この世界にはないので、木製のひな壇を作るしかない。
少し広めの踏み台として作ろうかな?
普通の令嬢はそんなことしない。などと、アンナの頭にはない。
専属侍女がいないのをいいことに、周囲の目も気にせずに、かなり自由気ままに動いているのだ。
「団扇、作れないかなぁ⋯⋯?」
プラスチックがないので、木製で作るしかないのだろうが、確か昔の団扇は竹で作られていた。
柔軟性を生かした竹の団扇を、温泉旅館で見た記憶はあるのだが、どうなっていたのか全く覚えていない。
「竹⋯⋯あるのかしら?」
団扇はないが扇子はある。
貴族女性の必須アイテムではあるが、未だ見たことがない。
アンナ自身がまだ必要ではない為に、持っていないのだ。
「一度こちらの扇子も見てみないと、分からないな〜」
扇子と団扇では大分違うが、骨組みが竹を使っているなら団扇も作れそうだ。
ただ、アンナは団扇の骨組みの作り方を知らないので、そこは細工師に是非頑張ってもらいたい。
ほぼ職人へと丸投げなのだが、そんなことを考えていると、ノックの音がして顔をドアへと向ける。
「どうぞ」
「失礼します。お嬢様、生地屋が参りました」
「お通ししてちょうだい」
侍女が案内して来たのは三人の男性。
内一人は以前に生地屋で見た店長だ。
「フランメイル辺境伯令嬢様。本日は当店をご利用下さり、誠にありがとうございます」
恭しく頭を下げる生地屋に、アンナは鷹揚に告げる。
「頭を上げてちょうだい。今日はわざわざ来てもらって申し訳なかったわね」
「いえいえ、呼ばれましたら駆けつけるのも、私共の仕事ですから」
揉み手しそうな顔で挨拶する生地屋を促し、持ち込まれた布を見せるようにお願いする。
「ご注文通り、青を基本として持って参りました」
店長より若い男性が布を広げ、子供のような歳の子が巻かれた布を渡して行く。
広げられた布を見て、アンナは思案する。
前世の祭壇は様々な青でグラデーションを作った。今回はどうしようか?
「柄物は必要ないわ。単色だけのが欲しいの」
そう言うと、柄物は下げられ単色だけが残される。それでも10種類くらいある。
「そうそう、これこれ矢車菊のようなコーンフラワーブルー、サファイアのようなブルー」
ネイビーでもマリンでもアクアでもない深く濃い青。
店長が苦笑いをする。
「お嬢様の仰るお色を探すのに、大変苦労致しました」
広げられた青い布は全て購入することにする。
特にコーンフラワーブルーとサファイアブルーは、かなり多めに買うことにした。
「また頼むかもしれないから、その時もよろしくね」
推しカラーで一人で着れる自分の服を作りたい。
葵衣と色違いのお揃いなんか作ったら、きっと楽しいだろう。
様々なデザインを頭の中に描き、アンナは嬉しそうに笑った。




