17
「ふんふ〜ん♪」
出来上がったボールチェーンを早速マスコットに通し、アンナはご満悦だった。
「推し活の第一歩って感じね」
ヲタ部屋への改造計画で、頭の中はお花畑である。
「作りたいものがあり過ぎて困っちゃうわ〜」
全くもって困ってない表情で、アンナは人形の服作りを再開する。
前の世界のように便利な物がないので、服一つ作るにしても工夫しなければならない。
ボタンだって穴を通すタイプしかないし、マジックテープなんて考えもつかないだろう。
更にはゴムさえないのだ。
そんな中で、いかにして前世のような服を作るかが課題だ。
「基本的に貴族は一人で服を着ないのよね」
唯一自分で出来る着替えは、ネグリジェのようなパジャマだ。
「作りたい物作ったら、今度は自分の服に挑戦してみようかな⋯⋯」
着替えくらい一人で出来るようになりたい。
侍女に嫌がらせをされていたせいか、余計にそう思う。
お風呂でだって、髪はグイグイ引っ張るわ、肌が真っ赤になる位に擦られるわで、散々だったのだ。
ーー水ぶっかけてやったけどね。
それからは一人で入浴している。
というか、侍女に洗われていた時よりも、髪に艶も出てきている。
これはアンナがトリートメント代わりに、ハチミツとオイルを塗ったせいなのだが、周囲は侍女が手抜きしていたとしか見ない。
それをいい事にサクッと退場を願ったりした。
侍従や侍女の雇用は家令の役目だ。
こう何度も解雇者が出れば、家令だって解雇されかねない。使えない者を見抜くのだって、家令の役目なのだから。
侍女を采配するのは侍女長の役目だが、この侍女長もまぁ使えなかった。
我が家に対する忠義もなく、大した仕事もせずに食っちゃ寝、下っ端侍女に嫌がらせばかりか、女主人気取り。まぁ、それを仕切る筈の女主人が留守ばかりなのだから、当然といえば当然なのだが⋯⋯。
近い内にこのクズ侍女長も追い出そうと目論んでいる。
本当にこの屋敷は歪みまくっている。
アンナにとって、料理人はマトモだっただけ有り難い。出来上がった料理を運ぶヤツはマトモじゃなかったけれど⋯⋯。
本音はこの家丸ごと教育的指導したいが、最近はアンナが目を光らせているせいか、真面目に仕事する者も増えてきている。
「それとなく寄り子貴族に噂を流そうかな⋯⋯」
上級貴族家で働く者は下級貴族が多い。
家令や執事、侍女長などは、長年仕えていた下級貴族から選ばれる。
主筋に子供が出来れば、家令や侍女長の子供が専属で仕え、それがまた次の家令や侍女長になるのだ。
今の家令に子供はいるが、男子だけなので、将来は兄に仕えるのだろう。
因みに侍女長は未婚だ。
普通は家令や執事と侍女長が夫婦になることが多いのだが、彼らが全力で回避したらしい。
まぁ、侍女長の性格の見目もよろしくないのだから、本人の自業自得なのだが⋯⋯。
とはいえ、いつかは専属侍女は決めなくてはならない。
貴族女子の専属侍女は嫁入りにも付いて行くため、なかなかなり手になる者はいない。
「これはまだ先でもいいかな〜、時間もあるし」
お金や時間に余裕があるのは嬉しいが、貴族として考えることは山積みである。
「めんどくさ⋯⋯」
アンナの呟きは広い部屋の中で霧散した。




