16
「で〜き〜た〜♡」
最後のマスコットを作り終え、アンナは満面の笑みで五つを並べた。
「うふふ〜壮観ね♪」
前世では時間に余裕がなくて出来なかったけれど、五体並ぶとやはり嬉しい。
葵衣人形を抱きしめ、マスコットを見せる。
「見て葵衣。かなりいい感じじゃない?」
青、赤、白、緑、紫とそれぞれの衣装を身に纏ったマスコットは、それだけでも異彩を放っている。
「あとは、ボールチェーンが出来るのを待つしかないか〜」
チェーンがないとマスコットの意味がない。
「それまでに葵衣の服も作ろっと」
型紙は取ってあるので、先ずは布を選んでいく。
「やっぱり赤を基本に黒と白を合わせた甘辛風よね」
鼻歌を歌いながら、デザインした服の通りに布を選ぶ。
型紙に沿って布を裁断したところで、侍女が来客を告げにくる。
「小物屋が、お嬢様からの注文品の試作が出来たと訪ねて参りましたが⋯⋯」
その言葉にガバリと顔を上げる。
「すぐにお通ししてちょうだい。それから、お茶の準備を」
慌てて片付けて、紙とペンを持ち、鏡を覗いてからいそいそと部屋を出た。
「これがお嬢様の仰っていた物の試作品です」
貴族の屋敷に気後れしている小物屋夫婦が、緊張しながら小さな袋からチェーンを数本取り出す。
差し出されたそれをアンナが手に取ると、何とも馴染み深い。
「凄いわ、ちゃんとボールチェーンだ」
感心していると、目の前の夫婦は明らかにホッとした。
「お嬢様が説明してくれたように使用してみましたら、本当に簡単に色々な所に飾れて、とても面白かったです」
「そうでしょう?」
前世ではバッグのブランドタグに使っていたり、傘の目印チャームなんかにも使われていた。
手軽にマスコットを付けたり出来るのは、これのおかげと言ってもいいくらいだ。
「これはね、小さなぬいぐるみを付けたい時にいいのよ」
「小さなぬいぐるみですか⋯⋯?」
「小さめのぬいぐるみがバッグに付いていたら、とっても可愛いと思わない?」
「そうですね⋯⋯思います」
「付ける場所も物も人それぞれだし、用途によってはとても便利なのよ」
アンナは紙とペンを出し、さらさらとクマのぬいぐるみを描き、その頭の天辺にボールチェーンを付けた。
「こんな風に売っていれば、若いお嬢さんは買うと思うわ」
アンナの絵を見た夫婦は、感心したように何度も頷いた。
「これに鍵なんか通してもいいのよね」
「そうか、ベルトに付けたりも出来るのか」
旦那の方がポンっと手を打った。
「チェーンの長さによって首にかけたり出来るし、用途は無限よ」
感嘆の息を吐き出し、夫婦は顔を見合わせると大きく頷き、ガバリと頭を下げた。
「これを是非私共の店で売らせて下さい!」
「もちろん構わないわ。私が欲しい時に優先的に買わせてくれたら、好きにしていいわよ」
「いえ、これはお嬢様が考えた物ですから、そういう訳にはいきません」
小物屋夫婦は商品登録と、売り上げの3割をアンナに提示した。
それに了承すると、夫婦は喜び勇んで帰って行った。




