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「育児放棄してる両親、妹に興味もない兄、そんないたいけな子供を嘲笑う使用人。これが馬鹿馬鹿しいと言わず、何と言えと?」
「⋯⋯」
ーー確かに。
並べてみると、かなり劣悪な状況だ。
しかも子供らは、まだ学園に入学すら果たせていない年齢だ。
「何か言われたら、こう返せばいいのです『好きにしている両親を見習ってるだけです』と」
いや、何その極論。
呆気に取られる兄に、アンナはため息混じりに続ける。
「まぁ、お金に不自由のない生活をさせてもらってることだけは、感謝してますけど」
お陰で大好きな推し活に精を出せる。
「他は限りなくクズですけどね」
唾棄するように言い切って、アンナは手元の作業を再開した。
呆然としたまま部屋を出て行く兄に、アンナは声をかける。
「だから、お兄様もお好きになさったらいいのですよ」
ハッとして振り向くと、アンナは黙々と縫い物をしていた。
「ーーうん、そうかもね」
今度こそ妹の部屋を出ようとした時、あることを思い出した。
「あ、フライドポテトもクリームシチューも美味しかったよ、アンナローズ」
思わず顔を上げたアンナだが、兄はもう既に消えていた。
「ーーふふっ」
きっと兄は関わり方を知らないのだろう。
アレな両親を見て育ったのなら、それも仕方ないことだけれども、前世知識のあるアンナには理不尽極まりない。
日本では《ネグレクト》育児放棄として逮捕される案件である。
だが、ここは貴族社会。
階級が上の者が絶対の世界なのだ。
つまり、親の言うことには従え。
兄は次期辺境伯なのは決まっている。
ーーならば女子である私は?
もしかしたら、家のためにと無理矢理おかしな輩と婚姻させられるかも知れない。
自分の望み通りの凡庸な生活なんて、きっとやって来ないだろう。
そんなクソ親の思い通りになってたまるか!
記憶の中にさえ居ない両親を、頭の隅に追いやり、アンナは密かに自立する術を模索していた。
「できた〜♪」
青い服を纏ったマスコットを掲げ、アンナはご満悦だった。
「ふむ⋯⋯一体で約二日か」
前回は作るのに一週間かかったのだから、まずまずの早さだろう。
「まぁ、作ることだけに没頭できるしね」
以前は大学やアルバイトなど、他にやることが多かった。
今は一日の大半を推し活に注ぎ込んでいる。
「っていうか、貴族の令嬢として、勉強とかどうするんだろ?」
アンナローズの記憶をサルベージしても、勉強という勉強はしてなかった。
せいぜい文字の読み書き程度。
本格的な勉強はこれからなのだろう。
「それまでにはマスコット作りを終わらせたいな〜」
推し活はやり出したらとことんなのだ。
あれもこれも欲しくなる。
マスコットが終わったら人形作り。
その人形の服も作りたいし、祭壇も作りたい。
部屋を推しで埋めるのが、今のアンナの目標である。
「まぁ、今は他のメンバーのマスコットを作るのに専念しよう!」
考えるの面倒になり、スッパリと頭を切り替える。
出来上がった青いマスコットを大事にソファに置いて、次の赤いフェルトに手をかけた。




