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前世ではそこかしこに普及していたアイテムも、ここではかなりの技術を使うらしい。
「難しくはないと思うわ。金型を作れば量産は出来るだろうし」
女性は「うーん」と唸った。
「これ、何に使うんだい?」
「キーホルダーやマスコットに付けたり、装飾にしたりするの」
「キーホルダー?マスコット?」
アンナは店の商品を手にする。
それは糸で編まれた出来た小さな髪飾り。
「これを髪にではなく、バッグに付けたいってなった時に、縫い付けるのではなく、簡単に持ち手に飾ることが出来るのよ」
「なるほど」
「それを小さめのぬいぐるみでやりたいの。それがマスコット」
ほほぅ⋯⋯と、感心する女性。
「よし、分かった。試しに作ってみるよ」
色よい返事にアンナはホッとしたように笑った。
「ありがとう。試作が出来たら届けてもらえる?」
「りょーかい、どこにだい?」
「フランメイル家」
途端固まる二人。
「お嬢ちゃん辺境伯令嬢だったのかい?」
「一応ね。話は家令に通しておくから」
高速で頷く二人にアンナは「お願いね」と念を押して店を出た。
店の前にいた護衛に「次は雑貨屋さん」と告げると、停まっていた馬車に乗り込んだ。
雑貨屋でフェルト生地やビーズを見つけ、大はしゃぎで大量買いすると、ご満悦で家路へと急ぐ。
「これでマスコットも作れる〜♪」
むふむふとニヤける幼女様は、自分が起こした小さな嵐をまだ知らない。
この数年後、ボールチェーンを使ったマスコットが流行り、それが主流になることを⋯⋯。
彼女の推し活に必要な素材が、他にも流用出来ると判り、辺境伯領がそれの産地になることを⋯⋯。
「ーー今日も出かけてたんだアンナローズ」
玄関ポーチを潜ると、落ちてきた声。
そこには柔らかなごく薄い茶色の髪に、理智的な翠の瞳の大変な美少年がいた。
「⋯⋯あ、お兄様か」
すっかり存在を忘れていたアンナである。
この発言に周囲はザワつく。
確かに交流は少ないかもしれないが、普通忘れますーー?
そのままアンナは上着を侍女に渡すと、厨房へと向かう。
(ーーえ?無視?)
フルシカトのアンナを追って、侍女が厨房へと到着する頃には、ポールと楽しげに会話するアンナがいた。
「そう、今日はホワイトシチューがいいの」
「ホワイトシチューとは?」
知らない料理談義をしているアンナに、呆気に取られる侍女。
アンナは一通り作り方を教えると、ポールに念押ししてから厨房を出た。
そこへアドニアスがアンナを追って来た。
「ーーお嬢様⋯⋯」
「あ、アドニアス。近い内に小物屋が注文の品を持って来ると思うから、対応よろしくね」
何か言いたげな家令を残し、アンナは部屋へと引き上げる。
彼女にとって今日の買い物の成果を確認することが、何より大事なのだった。




