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帰宅して荷物を部屋に置くようお願いすると、アンナは厨房へ急いだ。
「ポールさ〜んいる?」
ひょこっと覗くと、夕餉の準備に取り掛かろうとしてる料理長が見えた。
それに気付いた料理長は、エプロンで手を拭いながら手招きをした。
「お嬢様、何かありましたか?」
ててて⋯⋯と料理長の横へ行くと、その丸い顔を見上げる。
「うん、リクエスト。ジャガイモとサツマイモでフライドポテト作って」
「フラ⋯⋯え?なんです?」
首を傾げるポール。
「フライドポテトよ。無性に食べたくなったの」
「いや、フライドポテト?って何ですか?」
「え?」
お互い見つめ合うこと数秒。
あ、もしかしてないのかこの世界。
「ジャガイモとサツマイモをスティック状に切るの」
トントンと小気味良く芋が切られていく。
「アクを抜くために水にさらして」
ボウルいっぱいに張られた水を、濁りがなくなるまで交換する。
「水気を拭いて、熱した油へ投入」
じゅわっ!と音を立てて弾ける油。
「色づいてきたら引き上げて、熱い内に塩を振る」
パラッと塩をまぶし、軽く振って混ぜる。
「フライドポテトの完成〜♪」
皿へと盛り付け、熱々の内にいただく。
「はふっ、美味し〜!」
これこれ〜!このシンプルながら飽きが来ない味、ジャンクフードの定番!
あ〜バーガーも食べたい!オニオンリングもいいなぁ〜。
「え、うま!揚げて塩をしただけなのに!」
さっきまで遠巻きで見ていた料理人たちが、揃って手を伸ばしている。
「サツマイモのも美味しいです。イモの甘さが引き立ちますね」
「つか、これ止まらない。酒が欲しくなる」
ワイワイ言いながら私を押し退け、皿のフライドポテトはみるみる減っていく。
「ちょっ!私のがなくなる!」
慌てて皿を取り上げると、恨みがましい目で睨まれた。
「一人占めはズルいですお嬢様」
いや、コレ私が作ったんだけど?
「そうですよ、ちゃんと皆で食べましょう」
つか、私この屋敷のお嬢様なんですけど?忘れてなかい?君たち⋯⋯。
「簡単なんだから自分たちで作りなさいよ。雇い主の娘の物を取らないでさぁ⋯⋯」
ハッとしたように固まった後、料理人たちは各々ジャガイモやサツマイモを切り出した。
「いや、アンタらこれからディナーの支度でしょうよ」
いくら兄と私だけとはいえ、夕飯くらい食わせろや。
思わずツッコむと、料理人たちはハッとしてから料理長を見た。
「ーーお前らちゃんと仕事しろっ!!」
⋯⋯デスヨネー。
ポールの怒声を背に、アンナはフライドポテトの載った皿を手に厨房を出る。
まぁ、新しい料理に興味津々なのはいい事かな?
食堂へ行く道すがら、誘惑に勝てずにポテトを口へ放り込み、ふふっと小さく笑った。
書き溜めていたものを連続投稿。
また溜まったら投稿します。




