第67話 支えてくれるのはいつも......
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クラウン達はとある洞窟に逃げ込むとすぐさまそこに防音結界と隠形結界を張って気配と音を遮断した。
そして、そこで心の中に溜まっていた恐怖を吐き出すように荒く呼吸していた。その際、誰も話すことはない。放せる体力も気力もないのかただ呼吸することを集中させている。
それから容易に1日が経った。だが、その間も誰一人としてしゃべることはなかった。すると、クラウンはおもむろに結界を解除して歩き出す。その後ろをリリス達はついて行く。
クラウンはただずっと悔しそうに顔を歪めながら、拳を強く握る。その拳からは赤い雫が地面へと滴り落ちる。それは当然、逃げたことに対して。
あの状況は仕方のない選択であった。自分が果たす目的のためにもこんな所では死ねなかった。
だが、それはあの神の使いよりも自分が弱いという証明にしかならない。それは自分にとって屈辱的なことであり、絶対的な力の差を見せつけられた瞬間であった。
弱い、弱すぎる。圧倒的に力が足りない。あの神の使いを倒すほどに力が。獣王国にいた成り上がりの神の使いとは訳が違う。まさに異次元。人間ではない。
それに、あの神の使いに食らわされた一撃はなぜか<超回復>で回復することが出来なかった。それが出来ないということは、勝てないということと変わらない。あの神の使いの一撃は簡単に瀕死一歩手前まで自分を追いやった。
外は薄暗い雲に覆われている。しかし、そのすぐそばには見るだけで重量感を感じる雲が今か今かと向かってきている。
クラウン達は歩いていくと街が見えてきた。その街はあまり大きくない。そして、いるはずの門番がいなかった。
そのことを不審に思ったクラウン達はその街へと入っていくと街のシンボルであろう噴水に人だかりができている。その時、ベルがしゃべった。
「......じいじ?」
クラウン達はその言葉に耳を疑った。だが、聞き返すことは出来なかった。なぜなら、ベルが確信を得たようにその人だかりへと走っていくからだ。その後をクラウン達は思わず追った。
そして、ベルは人と人の間を縫って歩いていくと見てしまった。台座に固定された見覚えのある剣。そして、その剣の先に兵長の頭が刺さっている光景を。
「あ、ああ......」
ベルは思わず膝を地につけた。そして、どうしようもなく声と涙が溢れていく。すると、周りの人たちは何かを悟ったようにしながらも、ベルを囲むように見始めた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」
ベルは声が枯れるほど大声で泣き喚いた。そして、涙で目が見えない状態であっても立ち上がると匂いで兵長の頭のもとへと近づき、その頭を抱きしめる。
ベルの顔は滝のように涙がこぼれて止まらない。そのベルの涙に同調するように、雲も大粒の涙を大量に降らし始めた。
そして、またクラウン達もその光景を見てしまった。リリスは手で顔を覆って嗚咽交じりで泣き始め、エキドナは顔を逸らしならも肩を小刻みに震わせた。
また、ロキは悲しみを嘆くかのように遠吠えをする。そんなリリス達の姿を見て周りの人たちはざわめき、さらに野次馬を呼んだ。
その時、クラウンが握った拳からさらに流血させて、片足を大きく踏み出した。その勢いは地面に亀裂を走らせるほど。そして、溢れんばかりの殺気で無差別に人を攻撃しながら叫んだ。
「失せろ、見世物じゃねぇ!」
その一言で野次馬どもの声は一瞬にして消えた。そして、この場から逃げ出す者、腰を抜かして失禁する者、口から泡を吹いて気絶する者など多数の被害者を生み出した。しかし、そんなことはクラウンには関係ない。
クラウンはゆっくりと歩き出すとベルへ近づいていく。そして、ベルの傍にやってくるとクラウンはベルに頭にそっと手を置いた。
それから、上着を脱ぐと剣からはずした兵長の頭を乗せて包んでいく。また、台座から剣を引き抜くとその剣をベルへと渡した。
クラウンとベルは歩き出す。向かう先はどこでもいい。とにかくこんな人が溢れた場所でなければいい。そして、クラウンが歩く道をリリス達も続いていく。
それからはただ歩き続けた。まさにあてもなく冷たい風の吹くままに。そして、辿り着いた先は清々しいほどに醜く映って仕方がない色とりどりの花が咲いた丘であった。
だが、兵長にとってはここが一番いいのかもしれない。もう汚れきった景色を見なくても済むから。
「......ベル、埋めるぞ」
「あ、ああああ!うぅ.......はい」
クラウンは大きな木の下で手で兵長の頭が入るほどの大きさの穴を作り出した。そして、その穴へとベルが兵長の頭を埋めていく。そして、山なりに土を盛っていくと兵長が愛用していた剣を突き刺した。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」
ベルはその墓を見てよりしっかり現実を受け止めてしまったのか懺悔するように泣き崩れた。そして、その悲しみの波紋はリリス、エキドナ、ロキと襲った。そんなリリス達の姿を見て、クラウンは一人森の中を歩き出す。
『なんだ俺、悲しんでんのか?随分と弱っちくなってしまったな』
クラウンの中で先ほどから話しかけてくる存在がいた。それはもう一人のオレ。それは悪意を持ってクラウンを煽っていた。
『ここ最近で俺から主導権を握り返してきたようだが、やはりこの様だな。お前の感情は甘い、甘すぎる。だからこの結果を生んだ......違わないよな?』
「.......」
『お前は利用するために、道具にするために仲間を作っていたはずだ。だがどうだ?最近のお前はすっかり絆されちまってるようじゃねぇか。それで道具に一つを無くした』
「うるせぇ!」
クラウンは思わず横にある木を叩いた。その力は簡単に木をへし折った。だが、欲しいのはこんな力じゃない。もっと、もっとあの男を超えられるほどの力を!
『はは、ようやくらしくなってきたじゃねぇか。そうだ、恨め!憎め!呪え!嫌悪しろ!その力はお前を強くする!......力が欲しいんだろ?あの男を殺したいんだろ?なら、望め力!力を渇望しろ!』
『凶気度が 5 上がりました。現在の凶気度レベル 30 』
弱い自分が恨めしい。弱い心が憎い。あの男を殺したい。この世界もろとも全てを破壊したい。
『いいぞ!もっと、もっとだ。それでこそお前であり、オレだ!もっと自分に怒れ!もっと敵に恨め!この状況を憎め!この世界を呪え!』
『凶気度が 10 上がりました。現在の凶気度レベル 40 』
力が、この理不尽に抗い、敵を抹殺し、この世界を壊すほどの力が欲しい!もっと怒れ、俺はなぜこんな目にあっているのかを。もっと憎め、俺はどうしてこんな状況になったのかを。もっと呪え、俺の運命を狂わせた元凶を。
『ははははは、いいぞ!力が、力が込み上げてくる!お前は強くなっている!先ほどよりも格段にな!この世界にあるのは全てお前の道具であり、手段だ!それを全て使って理不尽に抗え!そして、全てをぶち壊せ!』
『凶気度が 15 上がりました。現在の凶気度レベル 55 』
『信用?仲間?助け合い?全てがお前に、オレに必要ねぇ!最初に復讐を誓った時は一人だったはずだ!あの時の闇が全てだった時のお前を思い出せ!あの純粋な黒に染まり切った瞳をしていたお前にな!』
『凶気度が 2――――――――』
「――――――――落ち着いて、クラウン」
クラウンが全ての闇に飲み込まれようとした瞬間、一筋の光が差し込んだ。その光はリリスであった。
リリスはクラウンの頭を胸へと抱き寄せるとそっとただ慈愛の笑みで撫でた。その顔にはまだ乾き切らぬ涙の跡があるにもかかわらず。
「あんたは一人じゃない。私達がいるじゃない。どんなに底なしの闇に飲まれようとも引き吊りだそうとする仲間がね」
「『邪魔を......するな!」』
クラウンはリリスへと睨んだように目を向け、口を歪ませた。だが、その睨んだ目は右半分だけで、もう片方の目からは涙を溢れさせていた。まるで右と左で人格の違う人物の顔をくっつけたかのように。
「そうね、邪魔しないで欲しいわ。私は(闇に染まった方の)あんたが嫌いよ」
リリスはクラウンの頭を右手で支えると左手でクラウンの右半面を思いっきり叩いた。するとその瞬間、クラウンの仮面は取れ、右目からも涙が流れてくる。
そんなクラウンの顔を見て、リリスは再び優しい笑みを浮かべてクラウンを抱き寄せるとそのまま座り込む。
「やっぱり、私はこっちのあんたが好き。だから、もっと身を委ねて。私じゃ不満?」
「お"れ"は"......お"れ"は"......」
「大丈夫よ、落ち着いて。私はどこにもいかないから」
リリスの胸元でクラウンが縋りつくように服を掴み、感情を爆発させた。もう自分の意思では制御できないほどにこの涙が止まることはなかった。どうしようもなく辛く、苦しく、そして悲しい。
仲間が死んだ。それはクラウンにとっては重要な意味を持っていた。そのことがとめどなく心を打つのだ。激しく、強く、鋭く、弱点に向かって。
「お"れ"は"......よ"わ"い"ん"だ"!」
「弱くないわよ。私達はあんたが強くいてくれるから、強くいられるの」
「痛"い"痛"い"痛"い"痛"い"痛"い"!」
「痛いわね。でも、大丈夫よ。私達がその痛みを拭ってあげるから。だから、クラウンも私達の痛みを拭ってよね」
まるで子供のように感情を暴れさせるクラウンにリリスはただただ優しい笑みと浮かべ、優しい声で返事をして、優しい手つきでクラウンの頭を撫でた。まるで母親が子供をあやすような構図にも見える。
リリスはクラウンの痛みが声から心に直接語りかけられているようでとても辛かった。
それは様々な意味で。復讐相手が人ではなく神の使いであったこと、その敵が圧倒的な力を有していたこと、仲間の一人が死んだこと、死んだ仲間が晒しものになっていたこと、そしてクラウンの心が壊れかけ、闇に飲まれかけたこと。
それら全てがリリスにとっては酷く心苦しいものであった。だが、その重すぎる思いに堪えられるのはひとえにクラウンの存在があったから。
声をかければ面倒そうにも返事をしてくれ、頼ればなんだかんだ言いつつも頼られてくれる。また、危険になった時は屁理屈を言いながらも結局は助けてくれる。
自分達のことを思ってくれる。だから、好きなのだ。男らしいところも、強いところも、欲望ダダ洩れなところも、優しいところも、弱いところも......その全てが。
「お帰り......クラウン」
重々しい雲に光の筋が現れ始めた。
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