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帝国の魔法少女

「考え直して下さい軍曹ッ」

 帝国軍前線基地の端に設置されているテントの中から怒声が漏れている。

「もう決めたことだ。何を言われようと覆す気は毛頭ない」

「しかし、魔法少女全員の即時処分はいかがなものかと」

「俺はあのゴミどものせいで司令に叱責され、あまつさえ他の部隊から無能呼ばわりだ。俺だって好き好んでゴミの世話なんかしてんじゃねぇってのに」

 共和国との初戦は双方痛み分けで幕を閉じた。

 常勝の軍である帝国軍にとっては敗北も同然である。

 そしてその原因とされたのが、魔法少女である。

 古参兵は別として、帝国軍は魔法少女を先行させ敵の連携を引き裂くという戦術でしか戦争を行ったことがない。

 だが今回はそれが達成できなかった。魔法少女は共和国の魔法少女に足止めされ、立て直しの時間を与えてしまった。

 そのことに関し、魔法少女の管理を担当している特殊兵装輸送部隊の隊長である軍曹は、指令に呼び出されたのである。

「そんなことをしてしまえば明日の作戦に支障が――」

「本国から取り寄せれば済む話だろうが!」

「確か長官のお気に入りがいたかと――」

「戦場で死んだことにすればいいだろ。キサマのもの好きも大概にしろ!」

 クロノは言葉を尽くし軍曹の愚行を止めようとする。

 しかし軍曹の耳にはどのような言葉であっても届くことはなかった。

「やはり田舎上がりの若造は常識がないな。もう一度言うが処分は決定事項である」

 クロノは自分の無力感に苛まれながらテントから外へ出た。

 彼は軍曹の言う通り、国境にほど近い寒村の出身である。それゆえ都会での当たり前に疎く、常識がなっていないと言われては何も反論することができない。

 だが彼から言わせてみれば、なぜ未来ある少女たちが搾取され兵士より前に出て戦わなくてはならないのか、それ以前に魔法少女が差別されていることすらも理解できない。士官学校以来の疑問である。

 そんな彼女たちは理不尽な理由で殺されそうになっている。

 しかしクロノはもう彼女たちを救う手段を、自らの浅慮で失ってしまった。

 彼女たちを救うには軍を離れるしかないのだが、それができない理由がある。

 クロノは重税で苦しむ村へ仕送りのために軍に入ったのだ。だが戦時中の今、軍から抜け出すようなことをしてしまえば、仕送りができなくなるどころか敵前逃亡の犯罪者になってしまう。それで田舎の両親に迷惑をかけることにだけは避けたい。

 だがそんな思いも、殺されることも知らず外で休んでいるのが目に入った瞬間、霧散してしまった。

「お願いだ、逃げてくれ」

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