帝国の魔法少女
軍曹は縋り付く彼女を鬱陶し気に足蹴にし、夜飯を決めるかのような気軽さで処分を決めてしまった。
「……ぃや…………いやぁ、許してくださいお願いします、まだ死にたくない、やだよ死にたくないよ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
彼女はすぐさま命乞いに転じた。
頭を地面にこすりつけ、延々と謝り続ける。
しかし彼女は、これを見る軍曹の顔が愉悦に染まっていることに気付けなかった。
「分かった許してやろう。ただし条件がある。キサマの手でこのゴミを処分しろ」
軍曹は彼女の目の前に分厚い刃を持つ軍用ナイフを落す。
言外にこれで七六を殺せと言っているのだろう。
今の七六なら、意識がなく防壁が展開されていないため、ただのナイフで殺せる。
「……!」
彼女は勢いよくナイフを手にすることまではできたが、その後が続かない。
きっと彼女と七六は仲が良かったのだろう。
ゆえに彼女は自分の命がかかっていても、まだ生きている仲間にナイフを突き立てるのをためらってしまう。
「どうした、やらんのか? 仕方ないな。それじゃあキサマも処分するしか――」
「上官、わたしがやります」
見ていられなかった。
三〇は決して彼女に同情したわけではない。
帝国の魔法少女にとって処分とはある意味では救済なのだ。
怪我や病気で戦えなくなったとき、長く苦しまなずに済むように殺すのだ。
「チッ、萎えた。もうテキトーに処分しとけ」
軍曹はそう言い残すと、発車の準備をしていたクロノ伍長の方へ歩いていった。
それを確認すると三〇は刀を顕現させる。
「ま、待ってください! まだ生きてます。だから、だからぁ……」
しかし言葉は続かない。
魔法少女が大けがを負おうと病気になろうと治療はしてもらえないことは、彼女も理解している。
だからこそ三〇を止める言葉を彼女は持ち合わせていない。
「私がやります……やらせてください」
「できるの?」
「……はい、やりまっす」
ナイフを拾い上げるのを見届けると、三〇はトラックの荷台に戻るため背中を向けた。
彼女の悲痛な慟哭は耳の奥にまで響き渡った。




