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帝国の魔法少女

 少し離れた場所で雷鳴が轟き、三七が吹き飛んできた。

 それが不幸にも格好よく勝負をつけようとしていたアリシアの背中に激突、そのアクシデントにより集結していた氷は霧散してしまった。

「いててて……あ、ミオ! やばいのがいるから手伝って‼ 」

 お腹を押さえながら三七は、懇願ともとれる必死さで協力を求める。

「無理。こっちにもデタラメがいるから」

「うそ、どこに?…………いないじゃん!」

 三七はアリシアの上に乗ったままなのだから、当然見つかるわけがない。

「いい加減降りて欲しいんだけど」

「ッ――⁉ 」

 どうやら本当に気づいていなかったようだ。

 アリシアに話しかけられた途端、飛び上がり三〇の背後へと逃げ込んだ。

「大丈夫?」

「大丈夫じゃない。お腹が殴られて痛いから膝枕してヨシヨシしてほしい」

 冗談も口にできてるしとりあえず大丈夫そうだ、と三〇は判断した。

 それよりも三七の言っていた『やばいの』というのが気にかかる。

 アリシアだけでも勝ち目がないというのに、そいつまで加わったらもうどうしようにもなくなる。

 それにその『やばいの』は一撃だけで、体重が軽いとはいえ少女一人を離れた場所にまで吹き飛ばすほどの力を持っている。下手をすれば目の前にいるアリシアよりも厄介かもしれない。

 ならば『やばいの』が来る前にアリシアをどうにかしなければならない。

「三七、まずアイツから」

「ん、わかった」

 もしかしたら三七と二人でなら攻撃が通るかもしれない。

 三〇の刀と三七の大鎌が同時にアリシアへと襲い掛かる。

 しかし、そんな淡い期待は早々に打ち崩された。

 再び止められた。

 アリシアの大剣に、ではなく指先が露出したグローブは嵌めただけの素手によって。

 おそらくこいつが三七の言っていた『やばいの』であろう。

 アリシアと同じく軍人とは思えない格好だ。

 ホルターネックのトップスとホットパンツの組み合わせ。トップスは大きくお腹のと背中が開いており、丈が胸の下あたりまでしかない。胸部には星を形どった模様が一つ施されている。

 露出の多い上半身とは対照的に、下半身は腰の周りについた前開きのスカートのような飾りやロングブーツにより抑えめになっている。

「悪りぃ、思ったより飛んじまった」

「まったく、リズは攻撃が雑なのよ。もっと繊細にコントロールしないと……」

 もはや状況は詰んでいるといっても過言ではないだろう。

 一対一で勝てない相手に、二対二になったからと勝てるわけがない。

 しかし速く目の前の障害を乗り越えて、敵を一人でも多く殺さなくては――。

 突然、後方より爆発音が聞こえる。

 そちらを見れば、遠方に帝国軍がうっすらと見え、空に花火が打ちあがっている。

(ああ、ようやく終わった)

 撤退命令だ。

 もう魔法少女の仕事は終わり、ここからは帝国軍が敵を征討する時間だ。

 三七に目で合図を送る。

(いち……にの……さんッ)

 呼吸を合わせ力いっぱい地面を蹴り上げる。

「きゃッ――!」

「ちょっ、うわ――!」

 敵の意識が一瞬、巻きあがった砂への対処に逸れた瞬間、背中を向け全力で走り去る。

 撤退命令が出た以上、もう敵と戦う必要はない。

「待って! 待ってよ…………ミオッ」

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