エピローグ 失敗の記憶
アリシアはボフっとぬいぐるみだらけになっているベッドへと身を投じる。
その顔には今まで必死に保ってきたお姉さんとしての仮面が剥がれ落ちていた。
「ようやくここまで来た」
達成感は感じているが、これから起こりうる事件のことを考えると気が滅入りそうになる。
「でも今回は本当にイレギュラーが多かったな」
ミオが今の段階でミオが魔法少女として覚醒したり、これまでになかったことがいくつか起きている。
「でも……このルートでならミオを救えるかもしれない」
目を閉じればいつだって思い出せる。
現在のアリシアの原点であり、失敗の記憶を。
とある寒さの厳しい冬の日だった。
目の前に鎌を持った、見覚えがあるようでない魔法少女が現れた。よく見れば彼女は傷だらけで、息も絶え絶え、なぜ動けているのか分からないほどであった。
「あなた大丈夫⁉ 」
アリシアは慌てて駆け寄り、崩れ落ちそうになっていた彼女を支える。
「やっと……見つけた……」
「え……?」
彼女は息も絶え絶えにそうつぶやくと、足元に魔法陣が広がった。しかもその魔法陣の大きさは極大魔法を発動するためのものと同じ大きさ。
「――⁉ 霊装展開《氷て――」
「我は求める、万物を繋ぐ絆の鎖を、ゆえに叶えよ我が願い《万象結ぶ連結鎖》」
急に攻撃されると思い、急いで霊装を纏う。だがしかし、彼女はいずこかから伸びている鎖を手に、アリシアの胸を触れる。
刹那、様々な記憶が頭の中によみがえる。
「どうして……私は忘れていたの?」
そう、忘れていたのだ。目の前のサナのことも、ここにはいない最も大切な妹であるミオのことも。
だがその原因も同じく思い出した。
ミオとアリシアとをつなぐ縁を、絆をミオの魔法で斬られたのだ。そのせいでミオとの思い出も何もかもがアリシアの中ではなかったことになっていた。
「アーちゃん、お願い……ミオを助けて……」
「サナ? ……サナ⁉ 」
サナはそう言い残すと、体から力が抜けていき、気を失ってしまった。
今すぐミオの元に行きたいが、かといってサナをこのままにしておけば、命を落とすことは確実だ。
「そうだ、エマージェンシーコール」
保護機構に所属する魔法少女のスマホに半強制的にインストールさせられたアプリを起動させる。ルプスからは本当に緊急のときしか使ってはいけない、と念押しされているが今ならば使っても大丈夫だろう。
そのアプリのコールを急患に設定して、サナの隣に置いておく。このスマホの位置情報をもとに、救助が来ることになる。
「ありがとう」
サナが命を懸けて繋いでくれたこの縁を無駄にするわけにはいかない。
アリシアは急いで帝国へと向かう。
全てが手遅れだった。
雪が積もる純白の大地。激しい戦闘があったのだろうと推測が簡単にできるほど地形が抉れている。しかし降りしきる雪がその痕跡を真っ白に染め上げていた。
しかし純白の中に一輪だけ、赤い大輪の花が咲いていた。血で形作られた死の花が。
「遅かったではないか。待ちかねたぞ停滞の魔法少女」
突然背後から声をかけられる。
この声にはひどく聞き覚えがあった。ミオとサナを、帝国の魔法少女を搾取し続けた元凶――
「ハクメンッ‼ 」
手にした氷の大剣を瞬間的に逆手に持ち替え、体を回転させながら背後を薙ぎ払う。しかし肉を斬り骨を断ち手ごたえはしなかった。
「おいおい、いきなりの挨拶よのう。せっかくお主が溺愛しておる断絶の魔法少女に合わせてやろうというのに」
「断絶……? ミオ⁉ 」
一抹の希望にすがり、ハクメンの方を向く。もしかしたら捕虜になっただけで、ミオはまだ生きているかもしれない。
しかしその希望はすぐに打ち砕かれた。
「ほれ」
という掛け声とともに、白銀の細長い糸が大量についた何かを投げ渡される。突然のことで反応しきれずに、それは地面を転がる。
「あああああああああああああああッ」
その何かは紛れもなくミオの首だった。
――間に合わなかった。
その思いにアリシアは支配される。
やはりあの時、ミオとサナを氷漬けにしてでも止めるべきだった。ミオの魔法を受けてしまう前ならそれができたというのに。
強い後悔の念に苛まれ、瞳から堰を切ったように涙があふれ出す。
「なんじゃその程度でつぶれるとは、詰まらん。せめてもの慈悲じゃ。三〇の能力であの世に送ってやろう」
ミオの刀を手にしたハクメンがゆっくりと近づいてくる。その様は勝利を確信した強者の余裕を漂わせている。
実にあっけない最後だった。ミオの魔法を前には霊装なんてただの飾りに過ぎない。易々と霊装を貫き、胸に刃が突き刺さる。
刀を伝い血が流れ落ちる。
「貴様の魔法、われが頂こう」
本当にあっけない最後だった。ミオを助けられず、一矢報いる気力すらもわかず、仇の手でこの命を終わらせられる。
薄れゆく意識の中、唐突に頭の中に無感情な声が響く。
『曲解魔法の発動条件達成を確認。曲解魔法を起動《遘√?豁サ縺励※蝗槫クー縺吶k》』
さあ、繰り返そう何度でも。
大切なあの子を助けるために。
これにて供養完了です
ここまで読んでくださった方に最大限の賛辞を申し上げます。拙い文章、へたくそなストーリー構成にも関わらず読んで下さりありがとうございました




