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星に願いを

 ミオにいつになく緊張していた。もしかしたら初めて戦場に出たときよりも緊張しているかもしれない。

 一度も体験したことのないことをこれから行うのだ。緊張するなという方が無理である。

 整然と並べられた机にセーラー服を着た十代前半の少女たちが座っている。未だ包帯が取れていないが、その子たちと同じ制服を着て、向かい合う形で立たされている。

「それでは自己紹介をしてくれるかな?」

 真っ白なブラウスとタイトなスカートをはいた先生に促され口を開く。

「はじめまして、ミオ・クルージスでしゅ」

 噛んだ。

 クラス内での第一印象を確定づける、かもしれない自己紹介を噛んでしまった。教室がシーンと静まり返っていたせいで、クスクスと忍び笑いする声がダイレクトに耳に入る。

 緊張に加えこの醜態である。羞恥のせいで顔を真っ赤にして俯いてしまう。

(穴があったら入りたい)

 きっと一人だけであったら、あまりの羞恥に悶えこの場から逃げ出していただろう。

 しかしミオは隣に立っている人物の服の裾をつかむことでなんとか逃げ出すことを耐えていた。

「はじめまして、サナ・クルージスです。先に言っておきますが、ミオはサナのものなので、手を出した泥棒猫は殺しひゃッ……許しません」

 サナがあまりにも物騒なことを言い出しそうになったため、横腹つつき何とか阻止する。しかし教室内の空気感は変わった、多分。

 ミオとサナはこの日からアンデルセン女学院の中等部の一員になる。二人が正式に学校に通えるようになるまで大変であった。



 あの後、二人は重なりあうように気を失っていた、らしい。目覚めたときには病院のベッドだった。

 隣のベッドにはサナが眠っていて、衝動的に胸に結晶がないか確認せずにはいられなかった。断ち切ったと感覚的には覚えているが、その直後に気を失ってしまったせいでちゃんと確認するのはこれが初めてだった。

「よかったぁ」

 サナの胸に黒い結晶は張り付いていなかった。

「えっとミオ……?」

「あ、」

 サナと目が合った。

 気まずい空気が二人の間を漂う。例え親しい間柄とはいえ胸元を開いてがっつりとみられていれば、同性といえど恥ずかしいことだろう。

「そんなに欲求不満なの? あ、もちろんサナは全部受け止めてあげるよ」

 サナが赤い顔で妙なことを口にする。

「? じゃあお言葉に甘えて」

「え⁉  うそ、ちょっと待って! そうは言ったけど心の準備が……」

 サナに思い切り抱き着き思い切り泣いた。

 不安だった。もし黒い結晶が付いたままだったらどうしようって。

「よかった、よかったよぉサナ」

 突然のミオの号泣にサナはどうしていいか分からずワタワタしていた。

 そうしていたらアリシアやリズがお見舞いにやってきて、動き回っていたミオの右腕の傷口が開いたりと、目覚めた一日目はかなり慌ただしかった。



 そして――

「本当にいいんだね」

 ルプスが真面目な顔で再度確認する。

「もう二人で決めたことだから」

「サナはミオといっしょにいれるならどこでもいい」

 ルプスから差し出された書類に、入院中の暇を持て余して練習した自分自身の名前を書き入れる。

「うん、あとの細かいことは保護機構ですませるから……ミオさん、サナさん、ようこそ共和国へ」

 帝国から真の意味で解放されるために、ミオとサナは共和国に亡命した。

 ただこの時の二人は身元引受人がこの国の大統領で、かつアリシアの父親になるとは夢にも思っていなかった。

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