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星に願いを

 無意識のうちに下唇を血が出るほどに噛む。サナを助けると決めたのに、その舌の根が乾く前に倒すしかないと思っている。

「――ッ」

 虚空より出現した、先端に重しのついた鎖が襲い掛かる。

 サナの攻撃方法が大鎌だけであれまだば何とかなったが、時折現れる鎖が死角から襲い掛かってくる。

 ここはサナの支配する空間なのだ。

 完全アウェーの状態で長期戦に持ち込むのは得策ではない。

 ゆえにミオは走る。サナの首に刀の刃を突き立てるために。

 ――これしか方法がない。

 ――もうサナはダメだ。

 ――これはせめてもの救済なんだ。

「……み……お……」

 サナの口から漏れるうわ言のような声。

 殺すつもりで放った突きはしかし、サナの頬を掠めるだけだった。サナが動いたわけではない。ミオが外したのだ。

 言葉を尽くして自らの行いを正当化しようと、ダメだった。やっぱりサナは大切な仲間で、絶対助けると決めた対象なのだ。

 ミオはその場に崩れ落ちる。サナを殺せないと気づいてしまった以上、もうできることが何もない。

「サナにならいいかな」

 ならせめて大人しくこの首を差し出そう。

 諦めが心によぎる。あれだけ死にたくないと足掻いていたというのに、今のミオにはそこまでの気力が湧いてこない。

(サナを殺すくらいなら――)

 振りあがる大鎌、全方位から襲い掛かる鎖。

 ミオ一人を殺すには過剰な戦力だ。抵抗をしなければ、まず間違いなく死ぬだろう。でもこれでいいのだ。

「生きるのを諦めないでッ!」

 アリシアの声が聞こえた。

 地面に転がしていた刀を拾い、大鎌を受け流し、鎖をはじく。

 死んでもいいと思っていたのに、サナにならこの命を差し出してもいいと思っていたのに。

 アリシアの必死な声が聞こえた途端、それはダメだと思った。帝国時代ならいざ知らず、今のミオには帰りを待ってくれている人たちがいる。

 そしてミオは、温かい人たちが待っている場所にサナを連れていきたい。だからミオはまだ死ねないし、サナを死なすわけにはいかない。

 ふとサナの胸元に生えている黒い結晶が目に入る。さらに成長が進んでおり、成人男性の拳大の大きさになっている。

 ミオは思い出す。

 あの結晶が胸に現れると同時にサナはおかしくなった。

 なら結晶を取り除けばサナを元に戻すことができるのではないか。

「万物が積みあがろうと、我が道を塞ぐことは叶わず《空間斬り》」

 確証はないがやってみるしかない。

 空間を斬り裂き、距離という概念を斬り伏せる。勢いをつけて空間の穴に飛び込む。出現する位置はサナの真正面、しかも目と鼻の先。

 そんな場所に勢いよく飛び込めば当然、二人は揉みくちゃになって地面に倒れる。

 黒い結晶を鷲掴みにして無理やり引きはがそうとする。しかし一向にサナから離れない。

「お願いだから、離れてよッ」

 サナからの抵抗はない。大鎌ではゼロ距離にいるミオに対して何もできない。鎖に関してはサナと揉みくちゃになっているため、サナを避けてミオだけを狙うということができない。

「な……⁉ 」

 しかし結晶が攻撃できないとは誰も言っていない。

 結晶から棘のようなものが伸び、ミオの手を貫通し右肩を刺し貫く。最悪なことに治りかけの傷を抉られ、あまりの激痛に手を放してしまう。

 サナがミオから離れるように鎖を使って、絶対にミオが追ってこれない空中へと浮き上がる。ただの跳躍ではない。鎖が天井に繋がってサナの体を支えている。

 縦横無尽に鎖が襲い掛かる。ミオの体に巻き付き締め上げようとする鎖を必死に弾くが、すべてを一人ではすべてを捌ききれない。

 利き腕を潰されたことも大きく影響している。どうしても反応が遅れ、遅れた分だけ鎖は容赦なくミオの体を嬲る。

 絶対的優位に立っているはずのサナの表情は相も変わらず無である。ミオと比べて表情豊かな方のサナにしてはやはりおかしい。

 ミオは確信を深める。あれはサナの意思などではなく、あの結晶を介して何ものかに操られている。

「なら、なおのこと助けないとね」

 痛みを我慢することには慣れているが、流れ落ちる血を止める方法は知らない。だんだんと出血の影響で手に力が入らなくなってきた。

「魔法少女ミオ、戦闘開始ッ」

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