星に願いを
「お待たせ三七」
「うんうん、全然待ってないよ。さ、帝国に帰ろ!」
キラキラと何も疑っていないような目でミオのことを見ている三七に少しばかり罪悪感を抱く。しかしこれは必要なことだと自分に言い聞かせ、何とか意識しないようにする。
「ごめん三七。それはできない」
「どうして……どうしてなの三〇。また三七のことを見捨てるの?」
表情が抜け落ちた顔で、抑揚もなく平坦に三七はつぶやく。
三七の鎌を握る手に力が入る。
「違う、そうじゃない。ねえ三七、いっしょに共和国にいよ? ここでなら知らなかったことをたくさん知れる。おいしいごはんも食べられる」
「でも帝国からの命令が……」
「そんなものは関係ない。三七はどうしたいの?」
「三七が……」
未だ生粋の兵器である三七には難しいかもしれない。だってミオですら完全に自分の進むべき道を選ぶことはできていない。でも、それでも経験から選択肢を、帝国の兵器という一本道に共和国という分岐点を作ってあげることはできる。
「でも……帝国は絶た――」
なおも帝国の呪縛に囚われ続ける三七を前にして、ミオはアリシアにしてもらったように抱きしめる。
「三七は……サナはどうしたいの?」
「三〇が三七の名前を……それに……」
三七の……サナの瞳から涙が零れ落ちる。
今にして思えばサナに抱き着かれたことや好意を示されたことはたくさんあったが、自分からこうやって抱き着いたことはなかった。名前だってそう。サナから無茶ぶり的に呼ばされることはあっても、自発的に呼んだことはなかった。
「三七は……サナはミオといっしょにいたい!」
ミオと違い兵器のまま自分の望みをいうのは相当な勇気が必要だっただろう。帝国では反抗に繋がりかねない反骨精神や将来の夢といったものは最初に叩き折られる。
「なら、いっしょに共和国にいよ」
一度サナから離れ、手を差し伸べる。
サナならこの手を取ってくれる。サナのことなら大体のことは分かっている。ずっといっしょにいたから。
恐る恐るサナは手を伸ばす。遅々としてカメのような進みではあるが、確かにミオの手を取ろうと伸ばしている。
これでサナも帝国の呪縛から解放される。
『帝国の敵に死を、裏切者には鉄槌を』
「え? あ、いや……いやぁあああああああああああああ」
突如としてサナが胸を押さえ苦しみ始めた。
胸から黒い石が結晶のように成長をはじめ、サナを侵食している。
「サナ?」
突然の絶叫にミオは理解が追い付かない。しかし尋常ではないサナの様子に心配になり近づいてしまう。
「――ッ⁉ 」
寸前で上体を後ろへと倒したから事なきを得たが、サナの大鎌がミオの首を落とさんと振るわれた。
蹲っていたサナはユラリと幽鬼のように立ち上がり、何も映してはいない空虚な瞳をミオに向ける。
「ミオ!」
「あの野郎ッ」
当然無理を言って様子を見てもらっていたアリシアとリズもこの異変に気付く。
しかし――
「囲め囲め、無限の檻よ、繋いで閉じよ《連縛結界》」
サナとミオを覆い隠すように鎖が渦巻き始め、ドーム状の空間を形成していった。
「どうしちゃったの、サナ?」
必死にミオが呼びかけるが、何も反応を示さない。その代わりに大鎌をふるいミオの命を刈り取ろうとしてくる。
この空間からの脱出も考えたが、どういうわけか壁を形成している鎖に刃が弾かれ、さらに自己防衛機構なのか斬った個所から鎖鎌が飛び出すおまけつきである。外からアリシアたちが破ろうとしていたが結果は同じようだった。
「正気に戻って!」
どれだけ呼びかけようとサナに声は届かない。
ミオは決めなければいけない。今のサナは今までと違って、ミオの命を本気で狙ってきている。この空間はサナの魔法である以上、サナに解除してもらうしかないがそれは無理そうである。
サナを倒すしかない。




