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星に願いを

 ピシッと氷の盾から嫌な音が響く。

 大鎌との接触点が微細なひび割れを起こし始め、それは瞬く間に全体へと広がり始める。蜘蛛の巣状のひびの入った盾は、もう持たない。

 パリーンッ

 ガラスが割れるような音を響かせ砕け散る。

「それなら、先に死んじゃえよッ」

 抑えきれなかった死神の鎌が標的をアリシアに変更し、刃を煌めさせる。

「あまく見るなッ」

 周囲には砕けてもなお消えない氷の破片が飛び散っている。それもアリシアが魔法で生成した氷である。

「爆ぜろ!」

「――⁉ 」

 三七が鎖を自在に操れるように、アリシア自身が生成した氷を操れないわけがない。

 一斉に氷は弾け飛ぶ。同じタイミングでアリシアは足を地面から離し、その衝撃を利用してリズにぶつかるように三七から距離を離す。

 自分の魔法とはいえ自爆同然の回避方法に無傷とはいかない。

「よかった。鎖が外れてる」

 それでも実行してよかったとアリシアは思う。

 一か八かの賭けであった。

 魔法少女を身動きを取れなくするほどの拘束魔法が攻撃魔法と共存できるわけがない。魔法少女、それもリズは肉体を強化する魔法を持っている。そんな魔法少女を拘束するのはかなりの魔法のリソースを使うはずである。だから攻撃する直前に、敵に悟られないよう解除することに賭けたのだ。

 もし共存できていれば、自分もリズも真っ二つにされていただろう。しかしアリシアは賭けに勝った。

 無事にリズを鎖から解き放つことに成功した。

「あんがとよ……でも、もうちょい早めに助けてくれると、なおありがたかったんだがな」

 リズが肩を押さえながら一言多いお礼を言う。

 しかしそれが強がりであるということは誰の目にも明らかだ。

「リズ……肩大丈夫?」

 ビクっと体を震わせる。まさかバレていないと思っていたことに呆れ半分心配半分といった感じのアリシアであった。

「……まだなんかとなる」

 リズが肩を押さえ時折顔をしかめていることから、痛めていることは確実だ。

「無理だけはしないでね」

 本音で言えば休んでいてもらいたいが、あの三七を相手に一人で何とか出来るとも思えない。

 アリシアは大剣こそ持っているが、魔法のほとんどは中距離で最も効果が出るものばかりである。ゆえに三七を抑えてくれる前衛がいないと決め手がなくなってしまう。

「ごめんリズ」

「いいって、いつものことだろ。それにあたしにはまだ足がある」

 氷煙の中から三七が這い出してくる。

「……リズ、手加減はできそう?」

「無理だな。手加減とか周囲への配慮とかしてたら、あたしらがやられる」

 二人は保護機構所属の魔法少女として、三七の保護や周辺の建物への被害を考えながら立ち回っていた。被害は最小限に、なるべく公共物である道路だけですむようにしていた。

「なら、いっしょにルプスさんに怒られよっか」

「ああ、そうだな。こっからは全力で行かせてもらう」

 幸いというべきか野次馬根性丸出しのバカはおらず、騒ぎを聞きつけた周辺住民は避難している。だから物的被害は出ても人的被害は出ることはない。

「進め進め一直線に、唯真直ぐに、稲妻を纏い煌きと為せ《纏衣雷光メギンギョルズ》」

 リズが使える最高にして最強の魔法。

 その身を雷と化し、最高速度は光速の域に達する。

 この魔法は効果は絶大であるが、ルプスに「街中では使うな」「まかり間違っても、人に向かって使うな」と口を酸っぱくして言われていた。

 ルプスがこう言う理由もちゃんと理解している。

 しかし目の前にいるのは、本物の戦場で殺しと自身の生存の術を我流で磨き上げた帝国の兵器である。戦場で会ったときは未だ固有魔法を持っていなかったため、何とか優勢を取れていたにすぎない。

 それにここで言いつけを守って三七に負ければ、ミオが帝国に連れていかれてしまう。

「氷が支配する極寒の大地、罪人が行きつく最果ての地、其処からは逃れること叶わず《永久に閉ざされし最下層タルタロス》」

 アリシアもリズと同じタイミングで上位魔法を発動する。

 極寒の吹雪が舞い上がり、その雪一粒は刃のように鋭い。そして、その雪はアリシアの意思で操作することができる。一度この空間に足を踏み入れれば、そう簡単に向けだすことのできない広範囲設置型の魔法である。

 こちらもルプスに以下同文である。

「いくぜ、おらぁあああああああああああああ」

 リズが残像すらも残さず、衝撃波を伴い走り出す。

 アリシアは雪を束ね、三七へと叩きつける。

「だめ」

 しかしその二つの上位魔法は、三七に直撃する寸前に動きを止めた。

 待っていてと言いつけた、絶対に守らなくてはいけない対象であるミオが、なぜか三七を庇うように立ちふさがった。

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