星に願いを
「アリシア……あいつは大丈夫なのか?」
ミオを安全な位置にまで連れて行っている最中であるはずのアリシアの登場に困惑の声を上げる。
「ええ、大丈夫よ。それよりもあの子をどうにかしないと」
アリシアの視線の先にいるのはもちろん霊装を纏った三七である。
「あれが霊装ってことは、固有魔法も使えるってことだよな」
三七は真の魔法少女に覚醒した。つまるところそれは、もう簡単に制圧ができなくなったということだ。
アリシアとリズは保護機構の中でも、荒事を専門としている魔法少女である。ゆえに覚醒したての魔法少女が一番危ないことを知っている。
覚醒したての魔法少女は、満タンに水の入ったタンクに穴を開けたような状態で、余りある魔力が溢れてある種のブーストがかかっているような状態である。
「やるぞ」
「もちろん」
言葉少なに合図を出し合い、息を合わせて戦闘の火ぶたを切り落とす。
そんな魔法少女を無力化する場合、魔法の使い方を理解する前に制圧してしまうに限る。
「凍てつき捕らえよ《氷獄》」
「雷光纏いて打ち砕け《電磁拳》」
三七に覆いかぶさるように氷柱の檻が出現し、完全に拘束する。そして氷柱ごとリズの拳で粉砕する。
二つの魔法は溶けあい、新たに一つの魔法として完成する。
「「連携魔法《氷雷剣散撃》」」
砕け散った氷は刃のように鋭く、中に囚われている三七の身に散弾銃の弾ように襲い掛かる。しかも氷の刃は音速を超える。そう簡単に避けることも、防ぐこともできる者ではない。
先制での大技は卑怯のような気もするが、相手がどんな魔法を使うか分からない以上致し方がない。共和国の魔法少女同士の戦闘であれば、魔法少女をあらゆる物理衝撃から守る霊装の削りあいで終わるが、相手は帝国の魔法少女である。共和国内の暗黙の了解など知らないし守る義理もないだろう。
「これで終わってくれると楽なんだが」
「まったく、ね」
しかし二人とも、アリシアは剣を中段に構え、リズは半身になりいつでも交戦に入れるよう準備していた。
これで終わりなど思ってはいない。
魔法少女との戦闘では相手の魔法特性が判明していないとき、勝利を確信するのは愚の骨頂である。魔法によっては自分の死を偽装したり、相手に心地の良い夢を見せることができる種類のものもある。
だから油断などしていない、はずだったが……。
「ッ⁉ リズ、その腕⁉ 」
「なっ、いつの間にッ」
リズの腕に鎖が巻き付いていた。
「つーかまーえた」
連携魔法によって巻き起こった砂煙を斬り裂き三七が姿を現す。先ほどの攻撃のダメージなど微々たるものであったようで霊装にほころびもなく無傷である。
「三七の三〇に手を出す泥棒猫は死んじゃえ!」
リズに巻き付いている鎖は三七の頭巾の陰から伸びており、リズが引っ張ってもびくともせず、アリシアが剣で斬りつけても弾かれる。
鎖が突然たわみ、三七に向かって巻き取られる。その力にリズは抗えず半ば引きずられるような形で、様子見のために取っていた距離が潰される。
「巻いて巻いてバラバラに《張りつけの十字鎖》」
地面を引きずられていたリズの手足に追加で鎖が巻き付き、無理やり立ち上がらせ腕を横に、足を下に引っ張り十字に掛けられたかのような体勢にされる。
「くっぞ、外れねぇ」
必死にリズはもがくが、鎖は軋みひとつあげない。ゆっくりと鎖は外側へと動いてリズの四肢を締め上げ、その万力により骨が軋みをあげる。
この時点で二人のあては外れた。もうすでに三七は魔法を自在に操れるようだ。
「この程度で終わりじゃないよ! 血飛沫あげて泣き喚け《断罪の刃》」
鎖が再び短くなっていき、リズの三七の距離が急速に狭まっていく。そして三七の大鎌に魔力が集まっていき、過剰な魔力がどす黒いオーラとして可視化されている。
「死に絶えろ!」
魂を刈り取る死神の刃のような大鎌がリズを真っ二つにせんと迫る。しかし張りつけの状態にあるリズには、アリシアのような遠隔で発動できる魔法を持っていない。
万事休すか。
否、氷の騎士が死神の前に立ちふさがる。
「凍てつくは心、凍えるは身体、永久不滅の凍土をもって受難に備えよ《聳えるは無窮の盾》」
アリシアとと三七との間に身の丈ほどはあろうかというほど巨大な氷の盾が出現する。
「邪魔ッ」
死神の刃と騎士の盾が激突する。
「あなたは後で殺してあげるからッ」
「そんなことさせない」
両者一歩も引かず均衡しているように見えるが、徐々にアリシアの盾が押し込まれている。




