星に願いを
ミオはアリシアに抱えられながら三七から遠ざかっていた。もちろんミオの安全を確保するためである。
しかしその足は止まっていた。
原因は三七から放たれる、先ほどとは比べ物にならないほどの魔力だ。
一年近く三七と共にいたミオでさえ、どこからあの量の魔力を引き出しているのか分からない。そもそもリズの一撃で動けないほどのダメージを受けていたはずで、魔力もほとんど削られていたはずだ。
なのに帝国の魔法少女、それもミオですら不可能であった霊装を三七は纏っている。
童話の主人公のような無地のワンピースの上にエプロンを着て、頭には黒色の頭巾をかぶっている。
骸骨のマスクが顔の下半分を覆っている。そのせいで服装は童話の主人公のようであるのに、手にした大鎌や骸骨のせいでメルヘンではなく、死神チックになっている。
霊装を纏ったとしても怪我が治るわけではないのに、さして痛みを感じていないように立ち、不気味に笑っている。
「まずいことになった」
それを見たアリシアがいつになく真剣な表情をしている。
ミオを電柱の陰に降ろすと、アリシアは大剣を握りしめ三七を睨みつける。
「ごめんミオ、厄介なことになった。だからちょっと行ってくる。大人しく待っててね」
アリシアが離れてしまう、そのことになぜか不安がこみあげる。衝動的に霊装のスカートのすそを握って、アリシアを制止してしまう。
「ミオ?」
手を離さなければならない。
三七から感じる魔力は下手をするなら、この中で一番といっていいほどに多い。たとえリズが強かったとしても、一対一では勝てるかどうか分からない。だからアリシアの判断は正しい。
理屈では分かっている。でも感情が手を放すことを許してくれない。
「今、魔法が使えなくなって……わたし、アリシアが行っちゃったら……でも……」
何とかアリシアを引き留めようと言葉を紡ぐが、言いたいことがまとまらない。
理屈と感情の板挟みになる。
そのことで頭がパニックになりどうしようもなくなっていると、フワリとアリシアに抱きしめられた。
「大丈夫だよ。ミオのことは絶対守るから」
氷の鎧の冷たさとアリシアの温かさを同時に感じる。アリシアの手で頭を撫でられると不思議なことに安心できる。
こんな年下みたいな扱いをされたのはアリシアが初めてなのに、ずっとこんな風に誰かに甘えていたかのように思えてくる。アリシアのなでなではまさに魔性だ。
ミオが落ち着いたのを確認するとアリシアは立ち上がった。
「あとね、ミオ。魔法ってのは自分を偽ったり否定してると、見えなくなるものだよ」
「え、それって……」
どういうことなのか、と聞き返そうとしたが、その時にはもうアリシアは行ってしまっていた。




