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星に願いを

 朦朧とする意識の中、ミオは死を覚悟していた。

 死にたくはないと願っても、都合よく誰かが助けてくれるなんてことは起こらない。

「大丈夫だよ三〇………殺しはしないから。ただ三七から二度と離れられないようにしてあげるだけだから、安心して」

 振り下ろされた鎌はミオの目の前の地面に突き刺さる。

 三七は殺しはしないといっているが、本気で鎌を振るっている。ずっと戦場を共に駆けずり回ってきたミオだからこそ分かる。あれは手加減抜きで向かってきている。

「逃げないんだ……抵抗しないんだ……あはは……」

 口は三日月のように吊り上がり、目は爛々と見開いていた、狂気じみた笑みを浮かべている。

「三七といっしょになろう」

 無慈悲にも三七は動けないミオに鎌を振り下ろす。

 逃げたくても未だ脳震盪のダメージから回復していないミオはまともに体を動かすことができない。

 三七が気まぐれを起こして、また外してくれるかもという期待はできない。三七の目は先ほどまでと違い、獲物の出方を窺うものではなく、肉食獣が獲物の喉元に喰らいつく時のようである。これで決めるという強い意志が感じられる。

 ミオだってここで終わりたくはない。体が思う通りに動かないなりに、逃げようともがく。

 地面に爪を立て這いつくばり、顔をヤスリのように凸凹としたコンクリートで削る。しかし朦朧とする意識と鎖に繋がれているように重たい体がそれを阻害する。

 ようやく変われそうだと思ったのだ。兵器だった『三〇』を捨て、アリシアに求められた『ミオ』になれると思ったのだ。

 しかしどれだけ死にたくないと願っても奇跡なんて起こるわけがない。

(起こるわけ……ないのに……)

 ミオの喉元の薄皮一枚を貫いたところで、なぜか大鎌の刃は止まった。そしてなぜか空気が焼け、オゾン特有のにおいが漂っている。

「待たせたな。もう大丈夫だ」

 ここ最近で聞きなれてしまったぶっきらぼうで男勝りなしゃべり方にどうしてだろう、心に安心感が満ちてくる。

「また……また、アンタかッ」

 三七は咆哮する。

「そういうお前はあの時のチビか」

 対するリズも獰猛な笑みを浮かべる。

 かつて二人は戦場で相まみえ、しかし勝敗は撤退命令のせいでなあなあになっていた。しかもその際の戦闘は終始リズの優勢で、ひどく三七のプライドを傷つけていた。

「大人しく保護される気は……ないよな」

 リズが言い終わる前に三七は襲い掛かる。

「邪魔をするなぁあああああああああああ」

 チッ、と舌打ちをして、リズはミオを小脇に抱え逃げに徹する。本気を出せば完全に振り切ることはできるが、三七が見失った後にどんな行動をするか読めない。ゆえにつかず離れずの距離を保つ。

 全然攻撃が当たらない上に、荷物を抱えた状態で余裕綽々といった様子に三七はだんだんと焦れてくる。

「こいつでどうだ!」

 三七は背後の空間から小さめの片手鎌を取り出し、そのまま投擲する。鎌はくるくるとリズに向かって飛ぶが、馬鹿正直にまっすぐ飛ぶ攻撃に当たってやるほどリズは優しくない。

 これまた余裕綽々に回避する。

「かかった」

 三七は左手で何かを引っ張るような仕草をした。よく見るとその手には鎖が握られており、それはリズの後方に向かってピンと張っていた。

 新しい武器の正体に気付いたときにはもう遅かった。鎖に引かれた鎌は、既にリズの間近に迫っていた。

「ミオ、魔力を張れ」

 しかしミオは頭を横に振った。

「魔法、使えない」

「はっ⁉ 」

 リズは逡巡する。

 自分ひとりだけなら回避することは容易である。しかしその際の加速に生身のミオが耐えられるはずがない。魔力の防壁を張ってくれているのなら話は別だが、それができないらしい。

「クソがッ」

 ならばここで取れる手段は一つ、自らの体を盾にしてミオを庇うしかない。

(痛いのは嫌だがこの際無視だ。もうあいつの悲しむ顔は見たくねえんだ)

 未だ無傷の霊装なら耐えられるはず、と己を励まし、迫りくる敵の攻撃に身を固くする。

「まったく……また体を張ろうとして」

 ガキンッと金属同士がぶつかり合う音が響く。

 援軍が来た。この世で最も頼りになる相棒が来てくれた。

「お前にだけは言われたくねえよ……それから、遅せえよアリシア」

「あなたが速すぎるだけよ、リズ」

 かつて戦場で帝国最強クラスの魔法少女である三〇と三七を圧倒した共和国の魔法少女がここに揃う。

「さあ、反撃開始だ」

 雷光の魔法少女による逆襲が今始まる。

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