星に願いを
人込みに逆らって進むのは相当に体力を使う。
一応アリシアとリズは保護機構所属の魔法少女として荒事に対応できるよう、それなりに身体は鍛えている。それでもこのぎっちりと隙間なく埋まっている歩道をかき分けて進むのは骨が折れる。
「ちょっとリズ、歩きスマホはダメだよ」
ふと隣を見れば、リズがスマホを操作していた。ただでさえ普通に歩いても人とぶつかりそうになるのに、歩きスマホなんてしてしまえばどうなるかは明白だ。しかもここ最近は歩きスマホを行政がなくそうとあれこれ対策を練っているくらいだ。
「ああ、ちょっとな……アリシアこれ見てみろ」
「ん?」
リズから見せられた画面にはネットニュースが映っていた。
その内容にアリシアは眉を顰める。
「これって」
「やっぱりおかしいよな」
この街の主要道路のほとんどで交通事故が起こっているという記事だった。しかもその半分は通行止めになっているらしい。
道理で住宅街近くの道にこんな人が集まっているのかと納得できたが、しかし偶然にしては何かがおかしい。通行止めになっている道路もここの近くのものばかりだ。
「何か嫌な予感がする」
突然、人の波の流れ急激に変わり、先ほどとは比べ物にならないくらいの速度で流れ始めた。
何かがおかしい。
アリシアの経験ではこんなことは一度もなかった。
「ミオ、やっぱり手をつなごっか……?」
帰り道では人通りが多かったから手をつないでおこうと思っていたのだが、文芸部の人たちにお菓子をもらったのがうれしかったらしく自分で持つと聞かなかった。それが微笑ましくて、手をつながずにいた。
しかしそれが間違いだった。
どこにもミオがいない。
こんな状況でなければ人込みで迷子になっただけだと楽観視できる。しかし遠くの方で濛々と立ち昇る砂煙と轟音、そして何かから逃げるように走る人々。
これらの要素がただ事ではないことを示している。
この事態がお祭りの雰囲気で気が大きくなったただの魔法少女が騒いでいるだけならまだいい。
最悪なのは帝国からの刺客にミオが発見された場合だ。
「リズ、行って!」
ミオが巻き込まれているという確証はない。
でもここで取るべき最適解はただ一つ。魔法少女の中でも最速を誇るリズに先行してもらう。
「分かった、先行ってるぜ――霊装展開《雷迅》」
雷光を纏いリズは加速する。




